静岡県、富山県、宮城県などで、園児への虐待や不適切な保育の実態が次々と明らかになり、報道とともに虐待への国民の意識が高まっている。保育関係者に加えて、保護者、地域住民は、何に気をつけ、どう解決に結びつけていけばいいのか。保育業界のオピニオンリーダーの1人、認定NPO法人フローレンス会長の駒崎弘樹さんと、日経xwoman客員研究員の羽生祥子が提案を持ち寄り、緊急対談をした。

日経xwoman客員研究員 羽生祥子(以下、――) 静岡県裾野市の私立認可保育所での虐待内容、耳を覆いたくなるような行為が明らかになってきていますけれど、あのようなことは異常であって、他の園では考えられない事実だと思いたいです。保育現場を実際に見ている当事者として、駒崎さん、どう感じますか?

フローレンス会長 駒崎弘樹さん(以下、駒崎) ニュース番組からの出演依頼もありますが、やはり「どれだけひどい事件かを話してくれ」というリクエストが多いです。もちろんとんでもない行為で、あってはならないというのが大前提の意見ですが、僕が今伝えたいのは、「虐待した保育士を逮捕して罰すればよい」という姿勢にとどまってしまうことに、違和感を覚えるということです

保育にかかるストレスや、虐待が起こり得る社会的構造を知る

―― 犯人捜しで終わらせてはいけないということでしょうか。確かに、行政は早速、不適切な保育に対する調査を強めていく方向ですね。それは保育園を利用してきた者として考えると、ただでさえ忙しい保育士さんがますます疲弊しちゃう……と心配になります。

駒崎 そうなんです、保育園のあら探しをして解決できるような簡単な話ではないですよ。虐待に関わった保育士はしっかりと調査を受け、虐待が事実であれば罰せられるのは大前提ですが、その前に、日本の保育所では2019年度には不適切な保育が年間345件あったと報告されていることも知ってほしい。この数字は正直に答えた園の数字だけですから、実際にはもっとあるはず。程度の差はあれども、不適切な保育は“すごく珍しいこと”ではないと言わざるを得ません。

―― 不適切な保育という言葉も、あいまいですよね。家庭内で自分の子育てを振り返っても、正直どこから不適切なのかが分からないです。

駒崎 保育の適切/不適切って、グラデーションだと思います。例えば食事のときの声がけですが、育児をしている人が極度に疲労している場合は、使う言葉によって「食べようね→食べなさい→食べろ!」と、乱暴な言葉遣いから虐待にまで変化していくでしょう。ただ、このとき僕たちはどう考えていくべきかというと、虐待が増加している構造を知り、そこをまずは改善していくしかないと思います。

―― その構造というのは、保育士の数が少ないということですか?

駒崎 保育士の数ではなくて、保育士1人が面倒を見る園児の数に着目しています。