「ペーパーレス」という言葉が定着してきた一方で、一向に進まない紙書類のデータ化、デジタル化に悩む企業は多い。紙書類をデジタル化する必要性そのものを感じていない場合もある。今一度、デジタル化の必要性、メリット、導入のポイントなどについて知るため、医療分野の紙書類のデータ化を支援するアガサの鎌倉千恵美さんに話を聞いた。

デジタル化が進まない一因は根強いハンコ文化

 契約書や申請書など、朱肉で押印された紙書面の原本でしか有効性を認められなかった手続きが、デジタル書面やオンライン提出を可とする方向に、国レベルで進んでいる。

 民間から行政への手続きで、書面での提出を求めるものは現在2万2084種類あり、2020年3月末時点で、オンライン化していない手続きは1万8612種類。このうちの97.7%にあたる1万8180種類の手続きは、25年末までにオンライン化される予定だ。各省庁や地方自治体のホームページを見ると、それぞれの部門で取り扱う申請書類などを、着々とオンライン化していることがうかがえる。

 にもかかわらず「行政がオンライン提出でよしとしている書類でさえ、今なお紙でのやり取りを原則とする企業がある」と語るのは、医療分野の紙書類のデータ化を支援する、アガサの鎌倉千恵美さんだ。一向に進まないデジタル化の現状や、解決のポイントなどを聞いた。

日経xwoman編集部(以下、――) デジタル書面やオンライン提出が可能となっても、あえて紙でのやり取りを続ける企業が存在するのはなぜですか?

鎌倉千恵美さん(以下、鎌倉) なかなかペーパーレス化できない理由の多くは、根強く残るハンコ文化だと思います。「赤いハンコが押してある紙の原本をもって確約」と見なす風潮は、今もあると感じます。海外の場合は、押印ではなく直筆のサインを書く文化ですので、書類をスキャンしたりコピーしたりしても、直筆と分かれば問題ありません。

「ペーパーレス化できない理由の一因は、根強く残るハンコ文化にある」(鎌倉さん)
「ペーパーレス化できない理由の一因は、根強く残るハンコ文化にある」(鎌倉さん)

 もう一つの理由として、現場レベルでは、デジタル化のメリットよりも、切り替え作業が面倒な印象のほうが強い点や、デジタル化で自身が人員削減の対象となることへの不安などが挙げられます。

 これまで紙の書類でやり取りしていたものをデジタル化すると、デジタルツールの使い方を覚えなければいけませんので、業務量が増えると感じるのは無理もありません。ただ、長い目で見ると、紙の書類を作成したり印刷したり発送したりする手間が省けるので、書類のやり取りに関する業務量は減るはずです。

 業務量が削減できれば、その分、新たな業務に取りかかれたり、業務過多の改善ができたりしますので、デジタル化だけが原因で人員削減の対象になるとは考えにくいと思います。