子どもの人生を豊かなものにしてくれる「絵本」そして「児童書」の数々。日々読み聞かせをしながら親子で大切な時間を過ごしている人や、気づけば一人でページをめくり、自ら空想の旅に出るわが子の姿を温かく見守っている人もいることでしょう。そんな親子をつなぐ絵本や児童書の作家さんに登場してもらうリレー連載。大人からも子どもからも愛される人気絵本&児童書の創作の裏側や、作り手の思い、親子へのメッセージをお届けします。
『しごとへの道 1』は大人からも反響
恐竜学者や宇宙飛行士、パティシエ、ファッションデザイナーといった、子どもに人気の職業を紹介する『しごとば』(ブロンズ新社)シリーズ、思わず親子で「この失敗、あるある!」と笑ってしまう『大ピンチずかん』(小学館)などのヒット作で知られる、絵本作家の鈴木のりたけさん。実は鈴木さんは一橋大学卒業後、JR東海に就職し、グラフィックデザイナーを経て、絵本作家になった異色の経歴の持ち主です。「思い入れのあるデビュー作」という『しごとば』シリーズ、そのスピンオフ作品となる『しごとへの道』シリーズをはじめとした絵本づくりにかける思い、創作の秘訣、わが子への教育方針についても聞きました。

日経xwoman DUAL編集部(以下、略) 鈴木さんの絵本といえば、『大ピンチずかん』『とんでもない』『たべもんどう』など、ユニークな絵とストーリーが魅力です。
しかし、新作『しごとへの道 1』は、新幹線運転士、パン職人、研究者という三者三様の生き方に迫り、読み応えのある内容となっています。こちらは既刊の『しごとば』シリーズをさらに深めたスピンオフ作品ということですか。
鈴木のりたけさん(以下、鈴木) そうですね。今回の『しごとへの道』シリーズは単なる職業紹介ではなく、「なぜ、今の仕事を選んだのか」を掘り下げました。子どもだけではなく大人の読者にも届いているようで、「専業主婦だったけれど、一念発起して再度働き始めました」というお便りなどもいただいています。
── 2009年にスタートした『しごとば』シリーズは、もともと鈴木さんの発案だったのですか。
鈴木 はい。当時は『たべもんどう』のような、野菜がたくさん出てくるダジャレ絵本をつくろうとしていました。毎日ひたすらダジャレを考えていたんですけど、行き詰まってしまって(笑)。そのとき、担当の編集者が「ほかにやりたいことはありませんか?」と聞いてくれ、勢いに任せてラフを描いて「こんなふうに仕事場を描いてみたい」と言いました。
僕のデビュー作は『ケチャップマン』ですが、そのときはコンクールで受賞した作品をそのまま出版してもらえたので、担当編集者と作品をつくりあげるスタイルではありませんでした。絵本業界のトーン&マナーも分かっておらず、そういう意味では、僕にとっては『しごとば』シリーズが実質的なデビュー作かと。思い入れのあるシリーズですね。
── なぜ、仕事場を描きたかったのですか。
鈴木 僕はグラフィックデザイナーとして働いていたんですが、自分のMacやデスク周辺に好きな絵を飾り付けて、「自分の城」みたいにしていたんです。仕事場にはその人の個性が出るから面白いな、と。
── 『しごとば』では1つの仕事につき、どのぐらい取材するのですか。
鈴木 だいたい2~3時間です。長くて3~4時間になることもありますが、やっぱり実際の仕事場におじゃまするので、そんなに長居はできません。事前に下調べはせず、現場に行って、パン職人なら「どうやってパンをつくるんですか?」と嵐のように質問攻めにして、カメラで写真をバンバン撮って、それをもとに絵本を描きます。自分がその場で「うおーっ、すげー!」と思った感動やライブ感を絵本に盛り込むようにしています。
