従来の人間関係や環境を越え、普段の職場とは違う場所で新しい経験を積むことで成長し、イノベーション創出に寄与する――。この特集では、職場における、こうしたさまざまな「越境」に注目し、新しい体験から得た知見を仕事に生かす事例を取り上げます。3本目は本業とは別の業務に関わる「副業」について。人材流出につながるのではという懸念とは逆に成果を上げる2社を取材しました。
最初に訪れたのはキリンホールディングス。社員の副業や社内起業を応援することでどんな成果が上がっているのか、人財戦略部 企画・組織開発担当の秋葉美樹さんに話を聞いた。
日経xwoman編集部(以下、略) キリンホールディングスでは副業を認めているそうですね。その狙いは何ですか?
秋葉美樹さん(以下、秋葉) はい、2020年7月から副業可能になり、外部からの「副業人財」も受け入れています。
もともと組織の多様性を高めるための施策の1つとして、社外で学んだことを本業に還流することを目的に整えた制度でしたが、同時期に新型コロナウイルス禍が発生して働き方が大きく変わったことを受けて、「働きがい改革」を打ち出しました。
一人ひとりが自分のやりたいこと、なし遂げたいこと、仕事の意義を見つめ直し、より成果を出して働きがいを感じられるよう、働き方の面で支援していく。働き方改革の一歩先を目指しています。例えば仕事の効率を高めるために働く場所の柔軟度を上げる在宅勤務制度の推進など、いくつかの施策のうちの1つが副業です。

―― 副業OKとなってすぐにスタートする人は多かったのですか?
秋葉 当時はまだ社会全体で副業がそれほど一般的ではありませんでしたし、「副業をしている」と社内であまりオープンにしない傾向もありましたね。本業あっての副業ですので、「本業がおろそかになるのでは」「副業で何かあったらどうするのか」と心配する声もありましたし、副業をしている社員も周りの目を気にしていたと思います。
広く制度を知ってもらうために、体験した社員の副業経験をインタビューして社内でシェアすることから始めました。今は社会全体も副業に肯定的になったこともあり、体験を積極的にシェアしてくれる人も増えました。社内SNS(交流サイト)でコミュニティーを立ち上げて、情報を共有したり、やってみたいと思う人が経験者に質問したりできるようになっています。
これまでに130件ほどの申請があり、多様な副業を行っています。
副業で経営的視座を構築できた人も
―― どのような副業をしているのか具体例を聞かせてください。
秋葉 そうですね。スタートアップ企業の仕事に関わっている人もいます。普段大きな組織では自分の役割は全体の一部でしかないけれど、スタートアップ企業では経営の全体を見ながら仕事をすることができて、大企業とスタートアップのそれぞれの良さを実感できているようです。
スタートアップ企業では経営者と直接話して方向性を決定し、自分が手を動かしてものを作り、直接ユーザーの顔を見て反応を実感する醍醐味(だいごみ)を得られる。一方で、スタートアップ企業の仕事では自分が社会に与える影響力は限定的なことが多いけれど、本業で行っている事業はより大きな世界に影響を与えられるということも実感できて、働きがいを高めることができたと話してくれました。
―― 副業で経営的視点を培えるのはメリットですね。
秋葉 視座が上がるという人が多いです。
