リモートワークがすっかり定着し、働き方に変化が生じています。仕事の効率化や成果をいかに生み出すかといったことに頭を悩ませていませんか? リーダーには、進捗管理や部下のやる気の引き出し方で従来とは違った工夫が求められています。日本睡眠学会専門医の中村真樹さんは「睡眠不足が仕事のパフォーマンス低下に直結していることを十分に認識している管理職はそう多くはないのではないか」と言います。この連載では特に現場の働き方改革の旗振り役ともいえる中間管理職に向けて、チーム全体で仕事のパフォーマンスを向上させるための「眠活法」について紹介します。

睡眠不足によって仕事の効率は4割も落ちる

 チームメンバー同士、対面で会う機会が減るなど働き方が大きく変わり、「どうやってそれぞれが事情を抱えるメンバーたちを一つにまとめ、生産性を上げるか」「いかに部下のやる気を引き上げるか」といった課題に試行錯誤している中間管理職も多いことでしょう。

 しかし、チームのパフォーマンスの観点で「睡眠」に着目しているリーダー職の人はどのくらいいるでしょうか。日本睡眠学会専門医の中村真樹さんは「睡眠不足は仕事のパフォーマンス低下に直結する問題です」と警鐘を鳴らします。

 「睡眠不足と仕事の生産性については世界で研究が進んでおり、数多くのエビデンスも示されています」と中村さんは話します。

 「例えば、英国の非営利研究団体RAND Europeの2016年度調査によると、睡眠不足による経済的損失額のGDP比を米国、英国、カナダ、ドイツ、日本の5カ国で調べたところ、日本がワースト1位で2.92%、損失額は年間1380億ドルの試算となりました。日本は睡眠時間が6時間未満の労働者の割合が約40%で、労働生産性は米国、ドイツの70%程度。これは諸外国と比べ、『非効率的な長時間労働』が常態化していることを表しています。またこの調査で、睡眠時間6時間未満の人が睡眠を6~7時間に増やすことで、7570億ドルも生産性が増えるという試算が示されました。

 OECDの21年度調査によると、日本人の平均睡眠時間は加盟国30カ国のうち最下位。さらに、厚生労働省が22年1月に公表した『2021年度 健康実態調査結果の報告』によると、睡眠時間が7時間未満の人が全体の67.7%におよび、日本人は全体的に睡眠不足といえます。

 睡眠と労働効率については、07年のOECDのデータを基に算出すると、1時間あたりの日本の労働効率は欧州の60~70%となっています。つまり定時8時間のうち日本人は8時間×60%=4.8時間分の仕事しかできていないようなものです。残りの3.2時間分の仕事をその日のうちに同じく60%の効率で行うと3.2時間÷60%≒5.3時間かかってしまう。つまり、寝不足によるパフォーマンスの低下の結果、本来8時間で済む仕事が8+5.3=13.3時間もかかっているのです。

 06年に行われた国内の調査で、日本大学医学部教授(当時)の内山真さんがある企業に勤める約3000人を調べたところ、『3人に1人が睡眠に問題あり』という結果になりました。月に5日は就業中に眠気を感じる、遅刻・欠勤の増加が原因で仕事の効率が40%ダウンすると試算され、この結果を基に日本全体での影響を推定すると年間3兆665億円もの経済的損失が出ていることに。いかに睡眠不足が生産性を下げているかが分かると思います」

日本大学医学部教授、内山真さんの研究による(06年)
日本大学医学部教授、内山真さんの研究による(06年)