2022年4月1日時点の待機児童数は3000人を下回り、10年前の約10分の1の水準です。保育所の施設数が増え受け皿が整いつつある今、「保育の質」の重要性がようやく認識され始めています。一方、保育士による「不適切保育」が相次ぎ発覚。質向上のため行政ができることを、厚生労働省の「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会」で座長代理を務めた、玉川大学教育学部乳幼児発達学科教授の大豆生田啓友さんに聞きました。
編集部(以下、略) 園児の足をつかんで宙づりにしたり、園児の額をたたいたりするなど、保育士による園児への虐待行為や不適切な保育が相次いで発覚していますね。「保育の質」を議論する以前の問題のような気がしますが、これらは氷山の一角なのでしょうか?
大豆生田啓友さん(以下、大豆生田) 私の知っている多くの園や保育士は、子どもを丁寧に受け止めようとしています。ですから、このたびの一連の報道を通して、社会全体にそのようなまなざしが広がっていることは、保護者のみならず、心ある多くの保育者にも大きな不安をもたらしています。
その上で、暴力行為とそこまでは至らない不適切な保育とを分けて考える必要があります。例えば、宙づりにしたり、たたいたり、といった行為は暴力です。これらは氷山の一角というより、特殊な事例と考えています。一方、子どもを脅したり、怒鳴ったりするなどの不適切と疑われる行為は、子どもの尊厳の理解が共有されていない園などではあるのかもしれません。ただ、自治体や各園が「保育の質」への考え方を整理し、実行していくことで一連の問題解決の一助になると考えています。待機児童問題が解決に向かっている今こそ、その機会が熟していると思います。
―― どういうことでしょうか。