人生後半に差し掛かると、誰しも潮目が変わるような「相転移(そうてんい)」の時期が訪れます。後半人生を「どう生きるか」。自分らしく生きるための戦略を考えるとき、図解によって物事を抽象化する思考ツールが役立ちます。自身も50歳を境にコンサルティング業界の第一線から大学教授へと転身を図ったという筑波大学大学院ビジネスサイエンス系教授の平井孝志さんに、自分の強みに目を向けて「ありたい姿」を明確にするために必要な思考法を聞きます。
(1)「前半の延長」ではない 後半生を自分らしく生きるには
(2)後半生は「他人の評価」を気にせず自問自答を重ねる ←今回はココ
(3)人生は決断の連続 トレードオン思考で考える
ミドル世代の私たちは、人生における相転移を迎えています。後半生においては、感動する、充実するといった楽しい時間を能動的に増やしていく。そうしていかないと、人生は「短く」なっていってしまう。前回はそんなお話をしました。
今回は、人生という旅路の指針として最も役立つパーソナル・アンカー(自分の強み)の見つけ方と自分を知って将来図を描く方法、の2つを紹介します。
ビル・ゲイツの強みは「交渉力」
『ストラテジー・ルールズ ゲイツ、グローブ、ジョブズから学ぶ戦略的思考のガイドライン』という本があります。著者の米ハーバード大学のデイビッド・ヨッフィー教授と米マサチューセッツ工科大学(MIT)のマイケル・クスマノ教授は、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズといった著名な経営者を詳細に分析し、成功に潜む5つの戦略ルールを示しました。その1つが、パーソナル・アンカーに基づく経営です。アンカーとは「強み」のこと。自分自身の長所を指します。
本の中でビル・ゲイツは「交渉力」、スティーブ・ジョブズは「デザイン力」という彼らのパーソナル・アンカーに即した経営を実践して成功した、と分析されています。私もその通りだと思います。
パーソナル・アンカーは、人生という旅路の指針として、最も役立つものだと私は考えています。そのために必要なのは、やはり過去の振り返りです。前回、私は自分自身を「知りたがりで、へそ曲がりで、おせっかい」と言いましたが、気に入っていようといまいと、昔から持っているものをありがたく生かす、これに尽きると思っています。まずは漠然とした自己分析から始め、前半生の出来事を振り返ってみましょう。
自分の強みを「相対化」で検証する
自分のパーソナル・アンカーがよく分からない、という場合は、周りの人と話をするのがお勧めです。ストレートに自分の強みを聞かずとも、日常会話の中で相手との相違に気づき、自分の強みを相対化してみてください。また、自分1人で強みを認識したとしても、それを持っている人が大勢いれば、強みは強みではなくなってしまうので、客観的な視点での検証も大切です。
企業分析では「自社の武器を知る」「どこにいるかを知る」の掛け算で戦略が決まっていきます。同じように、自分の中と、外との関係で、自分の強みを知る。そのことによって、自分の人生を意味づけしながら行動を起こしていきます。
私自身はビジネス、そしてコンサルタントの世界に身を置きながら、「知りたがりで、へそ曲がりで、おせっかい」という自分の特性を生かし、大学で教えたいという夢を持つようになりました。その前半生と後半生の夢をつなぐのに役立ったのがビッグ・ピクチャーです。