人生後半に差しかかると、誰しも潮目が変わるような「相転移(そうてんい)」の時期が訪れます。後半人生を「どう生きるか」。自分らしく生きるための戦略を考えるとき、図解によって物事を抽象化する思考ツールが役立ちます。自身も50歳を境にコンサルティング業界の第一線から大学教授へと転身を図ったという筑波大学大学院ビジネスサイエンス系教授の平井孝志さんに、人生の選択をする上で大事な思考法を聞きます。
(1)「前半の延長」ではない 後半生を自分らしく生きるには
(2)後半人生、なりたい自分への航海図を「おでん図」で描く
(3)人生は決断の連続 トレード・オン思考で考え抜く ←今回はココ
前回は人生という旅路の指針として最も役立つパーソナル・アンカーの見つけ方と、自分を知って将来図を描く方法についてお話ししました。最終回の今回は、後半人生における選択と決断について考えていきましょう。
いうまでもなく人生は意思決定の連続です。私はちょうど50歳の頃、戦略コンサルタントから大学教授へと転身しました。年収は大きく下がったものの、新しいチャレンジの場を得ることができました。転身には葛藤もありましたが、これも自分の選択で進んだ道です。決断をするときに、大事なのはどちらを選ぶかの前に、何を判断軸にするかを明確にすること。それによって答えが変わります。特に後半人生で迷ったときは、まず「何を大切にするか」に立ち戻ってみてください。
経営学において企業の戦略を考えるときも、二者択一を迫られて結論を急ぎがちです。社員のためか企業利益のためか、長い目で見てどちらを大事にするか。そうした判断軸を明らかにすることが先決です。
人生でも、私たちは「こちらを取ればあちらが立たず、あちらを取ればこちらが立たない」という二者択一によく直面します。ビジネスの世界でも、コストを取ればサービスが低下し、サービスを優先すればもうけが減るといったジレンマで悩むことも多いですよね。「すべてはトレード・オフで決めざるを得ない」とあきらめてはいないでしょうか。大切なのは、まず二者を両立できるような案をギリギリまで考えること。現実的にはどちらを取るかトレード・オフ的な決断しかできなくても、その次の選択で、どうにかトレード・オンを目指すこともできます。
二項対立の発想が本質的な課題解決を妨げる
ビジネスでよくある話を、例えとしてみます。売り逃しを防ぎたいために「在庫を増やす」という選択をしたところ、売れる商品の在庫はすぐに尽きて、売れない商品の在庫だけが残った。安易なトレード・オフを選んだばかりに、本来重視すべきオペレーションの質が落ちた結果です。さて、どうするか。
まずは、在庫を減らしながら、売れる商品と売れない商品の動きをしっかり見極める。そこに注視するとオペレーションの質が向上し、結果、在庫を抱えこまなくても売り逃しがなくなります。在庫→少ない、売り残し→少ないという「トレード・オン」の状況を手に入れることができます。
このように、本質的な課題解決のためには、トレード・オフという二項対立の発想をいったん見直し、トレード・オンを創る思考が大切になるのです。トレード・オン思考は、選択の質を上げるため日常でも多いに役立ちます。