安定も、確かな居場所もあるのに新しい一歩を踏み出したARIA世代の起業家に話を聞くこの連載。今回は、48歳のとき2度目の起業で「ロスゼロ」を創業した文美月さん。最初の起業でヘアアクセサリーの会社をつくり、急成長させる傍ら、途上国で教育支援を行っていた文さんは食品ロスという問題に出合います。食品ロスを減らすという社会課題をいかにビジネスとして成立させるか。「もったいないもの」をなくしたいという起業の歩みを聞きます。
(上)48歳で2度目の起業「もったいないもの」をなくしたい ←今回はココ
(下)再就職に挫折し「雇う側になる」ミッションとの出合い
「ロスをなくそう」と押しつけても続かない
編集部(以下、略) 食品メーカーなどにある規格外品や余剰在庫をおいしく食べられるうちにネットで販売したり、詰め合わせにして「ロスゼロ不定期便」という福袋のようなサブスクリプションにしたり、使われていない食材を生まれ変わらせてアップサイクル食品を開発するなど、ロスゼロではさまざまなアイデアで行き先をなくした食品を消費者につなげる事業を展開していますね。食品ロスという社会課題に出合ったのは、どういうきっかけでしたか?
文美月さん(以下、文) ヘアアクセサリーの通販事業をしている中で、「何か社会に還元できないかな」と思い、日本で使われなくなったヘアアクセサリーを回収して寄付したり販売したりして途上国での教育・職業支援につなげていました。誰かにはいらなくなった物でも、使ってくれる誰かがいる。「もったいないもの」をつなぐ橋渡し役が必要だと気づいて、より大きな「もったいないもの」は何かと考えたら、その最たるものが日本の食品ロスでした。
―― 「食品ロスを減らす」という課題を事業にするとき、大事にしたのはどういうことですか?
文 食品ロスを削減する事業はもうからない分野だといわれました。例えば余剰食品はフードバンク(編集注:流通に出せない農産物や食品などを、無償で福祉施設や家庭に提供する団体やその活動のこと)でも活用されていますから、企業として行うには、どこでどうマネタイズするかがすごく大事だと思っています。
「フードロスをなくそう」と押しつけてもダメで、高くてまずいけど社会課題を解決できるから買ってもらうということでは続きませんよね。だから、おいしく、楽しく、笑顔で食べることが、結果として食品ロスを減らしている、そういう事業にしたいと思いました。
―― 最初はどんなことから始めたのですか。
文 初めはクラウドファンディングでした。実は知り合いの経営する食品会社で規格外品が出るという話は聞いて知っていたんです。その経営者さんはカンボジアでの活動で何か協力することがあれば、と声を掛けてくれていました。扱っているのは高級スイーツです。検品ではじかれるものをネットで販売して、その売り上げを寄付をするのはどうですかと聞いたら、最初は断られたんです。苦労して築き上げたブランドのイメージが崩れるから、簡単に安く売ることはできないと。
―― 食品のロスは減らしたいけど、ブランドイメージは落としたくないという悩みがあったわけですね。
文 それで考えて、提案したのがクラウドファンディングです。