あらゆる経済活動においてSDGsや脱炭素の視点が不可欠となっている今、私たちの生活の根幹を支える農業も変革を迫られています。「高齢化」「後継者不在」……都市部の人間の多くは、日々の食に直結している農業の現状にそんな漠然としたイメージしか持ち得ませんが、そうした「遠い世界の話」という消費者の感覚が、変化の風通しを悪くしているのかもしれません。持続可能であるために、農業の在り方はどう変わるべきなのか。「環境への負担の少ない農業」をテーマに新規就農者と連携している「坂ノ途中」代表取締役の小野邦彦さんが解説します。
(1)持続可能な農業を担う新規就農者、続かずやめていく理由 ←今回はココ
(2)効率化を目的から手段へ 少量不安定でも農業は成り立つ
(3)ブレを楽しむ豊かさが、サステナブルな食の未来をつくる
農業への「新規参入」はしやすくなっているが…
編集部(以下、略) 小野さんは2009年に「坂ノ途中」を創業しましたが、当時、農業に対してどのような課題があると感じて起業に至ったのでしょうか。
小野邦彦さん(以下、小野) 僕は「農業をどう思うか」という問いの立て方が、あまり意味のあるものだとは思っていないんです。なぜならその問いは、「サラリーマンの未来ってどうですかね」と言っているくらい幅広いから。皆さん、第3次産業についてITから接客業までをひとくくりにして考えるようなことはないですよね。でも第1次産業の農業はすごくざっくりととらえてしまうあたりが、ふだん都市部で暮らしている人にとって、農業がとても遠い存在であることの象徴だと思っています。
農業はきわめて多面的、多義的なものです。その中で僕たちは、環境への負担の小さい農業がもっと広がっていったらいいのではないかと思っています。工業的なやり方でエネルギーをたくさん使い、安定的に大量生産するのではなく、化石燃料や農薬、化学肥料をそれほど投入せずに、地域の資源を循環させながらその土地に合ったものを栽培していく農業。そのほうが環境への負担が小さくて、できてくる作物もおいしいし、持続可能でいいのではないか、と。
農薬や化学肥料を使わない手法は有機農業と言ったりしますが、僕たちはもう少し広く捉えていて、農薬や化学肥料をことさら敵視していないけれど、なるべく減らしたほうがいいという意味で「ローインプット型農業」と呼んでいます。
こういう農業を志向する人って、既存の農家よりも、新規で農業を始める人に多いんですね。今、日本で有機農業が行われている面積は全農地の0.6%しかありませんが、新規就農者へのさまざまなアンケート結果を見ると、おおむね過半数の人が「せっかくやるなら有機農業か、それに近いことをやりたい」と回答しています。
今、空き農地(耕作放棄地)は農地全体の10%以上あります。かつては農業をやりたいと思っても農地が借りられない、取得できないのが普通でしたが、これだけ空いていることもあって土地の確保は容易になってきています。新規就農者が増えていくことで、日本の農業は環境負荷の小さい、よりサステナブルな方向にシフトしていけるはず。ところが残念なことに、新規就農者は経営が成り立たずやめていく人がほとんどです。そこがとても惜しくて、あと一歩のところを後ろから支えるような仕事をしたいと思って起業しました。
―― 新規就農者の経営が成り立たないのはなぜでしょうか。