あらゆる経済活動においてSDGsや脱炭素の視点が不可欠となっている今、私たちの生活の根幹を支える農業も変革を迫られています。「高齢化」「後継者不在」……都市部の人間の多くは、日々の食に直結している農業の現状にそんな漠然としたイメージしか持ち得ませんが、そうした「遠い世界の話」という消費者の感覚が、変化の風通しを悪くしているのかもしれません。持続可能であるために、農業の在り方はどう変わるべきなのか。「環境への負担の少ない農業」をテーマに新規就農者と連携している「坂ノ途中」代表取締役の小野邦彦さんが解説します。
(1)持続可能な農業を担う新規就農者、続かずやめていく理由
(2)効率求め多様性を排除はNG 少量生産でも成り立つ農業 ←今回はココ
(3)ブレを楽しむ豊かさが、サステナブルな食の未来をつくる
新規就農者が直販で食べていくのが難しい理由
編集部(以下、略) 環境負荷が少ない、サステナブルな農業を志向する新規就農者は販路をいかにつくっていくかが大きな課題だというお話でした。今は、インターネットを使って自力で販売していくような直販という方法もありますが、それで生計を立てるとなると、やっぱり難しいのでしょうか。あと、近ごろは直売所も各地にいろいろありますよね。
小野邦彦さん(以下、小野) 直販も作物によるところがあって、果物は割といけたりするのですが、野菜はちょっと難しいと思います。
前回、市場出しではいくらの値がつくか分からないので経営計画が立てられないと言いましたが、ネットで自分で売ってみるのも同じことです。何かの拍子にぐっと売り上げが上がることはあるかもしれませんが、結局どれだけ売れるかは分からないので。
「既存の流通に乗せられないから、近所の直売所にでも出してみようか」というのもありがちな行動ですが、直売所って現役を引退して趣味で畑をやっているおじいちゃんやおばあちゃんがよかれと思って激安で農作物を出す場所です。つまり、利益度外視の価格と競うことになってしまいます。
リアルな直売所のほか、オンラインの産直通販サイトも盛んになってきました。販路の多様化という意味ではすごくいいと思います。消費者と生産者が直接やり取りすることで互いの距離を近づけることは大事です。ただやっぱり、どれだけ売れるか分からないので、生産者の経営を支えるインフラの機能を期待することは難しいと思います。
新規就農者の経営を成り立たせるためには、「就農してくださーい。すてきな未来が待っていますよ!」と無責任に呼びかけるのではなく、就農後の人たちと一緒に、少量だったり、不安定だったりする生産でも、品質が良ければまっとうな価格で流通できるような仕組みをつくることがおそらく必要なんです。そう考えて、僕たちは「坂ノ途中」をやってきました。
新規就農者の人たちって、どうしても農業をやりたいという強い意志を持って就農する人が多いので、熱心に勉強するし、丁寧に野菜作りと向き合って試行錯誤を重ねます。そういう人が作る野菜は、品質も高くおいしいことが多い。だからパートナーとしてやっていけるという面もあります。
新規就農者の「長距離走」に伴走し、時には農家さんにちょっと耳が痛いことを言ったりもするし、お客さんのほうに「これぐらい許容してね」と伝えることもある。どちらに対しても僕たちは「話せば分かる」というスタンスです。ちゃんとコミュニケーションを取って、お互いの事情を理解し合う。そういう取り組みにどうも意味がありそうだなと思っています。
―― 新規就農者が安定的に売り上げをつくるために、「坂ノ途中」は具体的にどんなことを行っているのでしょうか。