あらゆる経済活動においてSDGsや脱炭素の視点が不可欠となっている今、私たちの生活の根幹を支える農業も変革を迫られています。「高齢化」「後継者不在」……都市部の人間の多くは、日々の食に直結している農業の現状にそんな漠然としたイメージしか持ち得ませんが、そうした「遠い世界の話」という消費者の感覚が、変化の風通しを悪くしているのかもしれません。持続可能であるために、農業の在り方はどう変わるべきなのか。「環境への負担の少ない農業」をテーマに新規就農者と連携している「坂ノ途中」代表取締役の小野邦彦さんが解説します。

(1)持続可能な農業を担う新規就農者、続かずやめていく理由
(2)効率求めて多様性排除はNG 少量生産でも成り立つ農業
(3)味のブレを楽しめると、持続可能な食と農業がつくられる ←今回はココ

「耕作放棄地が増えていること」は、暗い話とは限らない

編集部(以下、略) これまでのお話から、サステナブルな農業が本格的に広がっていくためには課題が多いことが分かりました。

小野邦彦さん(以下、小野) 有機農業を志向する新規就農者を取り巻く状況はまだまだ厳しいですが、一方で行政も変わっていこうとしています。最近でいうと、農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を2021年に打ち出しています。環境への負荷の小さい農業にシフトしていくことを目指し、そのための取り組みの方向性や目標を掲げたものですが、目標の1つに「2050年までに耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の割合を25%(100万ヘクタール)に拡大することを目指す」とあります。現状が0.6%ですから、ものすごく野心的な目標です。

 具体的に何をどうすれば実現できるかは農水省もまだ手探りなのですが、各地の自治体からは農水省に「どうやって環境負荷の小さい農業を広げればいいんでしょう?」と問い合わせが来ます。それで先行事例について勉強会をしましょうということで、僕も農水省に呼ばれて自治体向けに話をしました。

―― 具体策を模索中の段階で、構想だけを先に大きく打ち出してしまったのですか?

小野 そうなのですが、ビジョンをまず掲げて具体的な方法は走りながら考えるって、僕はベンチャー的で結構いいなと思いました。これまでの農水省にない変化を感じています。

 日本の農業・環境政策は基本的に欧州連合(EU)を参考にしています。EUが推進する「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」では、30年までに全農地の25%を有機農業にするといっているんですね。それで、「じゃあ日本は20年遅れの50年までに25%を目指そう」となったわけです。

 農業がどうしたらもっとサステナブルなものになるかというのは近年、世界的に大きな関心事となっています。日本はどちらかというと出遅れていましたが、何とか世界のトレンドについていこうと動き出している。これは、農業が大きく変わるチャンスでもあるなと思っています。

 とかく農業って、「耕作放棄地がどんどん増えている」とか「基幹的農業従事者(農業を主たる仕事にしている人)の数が2000年からの約20年間で半減した」というように、悲観的なトーンで語られがちです。農地というのは歴史上常に貴重な存在で、奪い合いの対象だったりしたわけで、使える農地が放棄されるなんていうことは人間が農業を営み始めてからたぶん初めてのこと。だから、これが暗いことなのか明るいことなのかについては答えがなくて、どう生かすか次第なのです。

―― 今までに経験したことがない状況だからこそ、可能性もあるということでしょうか?

「使える農地が放棄されるなんていう状況は、過去に例のないこと。だからこそ悲観的な話だとは限らないし、要はその状況をどう生かすか次第なのです」
「使える農地が放棄されるなんていう状況は、過去に例のないこと。だからこそ悲観的な話だとは限らないし、要はその状況をどう生かすか次第なのです」