専業主婦から29歳で離婚し、子どもを育てながら働き、40歳で司法試験に合格した中原阿里さん。弁護士として多くの法律相談や訴訟に関わる一方で、過労で体調を崩し入院したとき、「幸せって何だろう」と改めて問い直すことに。そこから「心」に向けた学びを深め、50歳でウェルビーイングを軸にしたコーチングスクールを起業。弁護士、公認心理師、経営者としても活動するようになった中原さんの歩みを聞いた。
(上)シングルマザーが一念発起 40歳で司法試験に合格
(下)念願の弁護士になるも6度の入院で「幸せって」と考えた ←今回はココ
弁護士として10年間で1万件以上の相談を受ける
40歳で念願の司法試験に合格し、民事も刑事も扱う事務所で弁護士活動を始めた中原さん。希望に燃えて事件一つひとつに丁寧に向き合っていった。「当時のことで、思い出す光景があります。坂を上って帰宅する途中、振り返って街を見ると、家々の窓に明かりが灯っていて。この一つひとつの家の中がすべて平和で心穏やかであるように。自分にできることを精いっぱいやろうと思っていました」
裁判に至らないものも含め、中原さんが弁護士生活10年間で受けた相談件数は1万件以上。「自治体の無料法律相談や夜間の自殺対策相談など、法律相談を受けたい方はたくさんいらっしゃいます。だから基本的に相談のご依頼はすべてお受けしていました。深夜1時2時になることもあり、裁判員裁判の準備で泊まり込むこともありました」
「振り返ると、自分をすり減らしながら夢中でやっていたなと思います。周りから働き過ぎだと言われることもありましたが、働き方には疑問を感じていませんでした」。大手保険会社の弁護士満足度ランキングで3年連続1位になる働きぶりだった。
救急車で運ばれ、強制リセット状態に
ハードワークによる過労で体調を崩すこともあったが、入院してもパソコンを持ち込めると仕事ができてしまう。「誰にも言えないような夫婦や家族の問題なども弁護士には話していただけることが多く、自分も常に真剣に向き合ってきました。30分の相談でも依頼者様に安心してもらえるとうれしかったですし、裁判が終わって『良かった』と言ってもらえることが励みになります。それが心のエネルギーになっていました」
弁護士になって10年目のある日、仕事に向かう途中におなかが痛くなり、痛み止めを打ってもらうためクリニックを受診。受付でそのまま意識が低下し、救急車で運ばれた。弁護士になって6度目の入院だった。「手術後は起き上がれずにパソコンも使えない強制的なリセット状態でした。手術で摘出された臓器を見て、ふと我に返った。このままでは無理だ、と。それがウェルビーイングを考えるきっかけになりました」