農林水産省の発表によると、日本では年間に522万トンもの食品がまだ食べられるのに廃棄されている。 横浜市旭区で開催された「食品ロスをなくそう」と題された講演会の壇上で、食品ロス問題ジャーナリストの井出留美さんがさまざまなデータを駆使してこの問題について解説するのを、多くの参加者がメモを取りながら聞いていた。「帰ったら、誰か1人にこの話をしてください」と、講演の最後に参加者に呼びかけた言葉に、伝えたいという思いがにじんでいる。講演を終えたばかりの井出さんに話を聞いた。

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(下)恵方巻きの廃棄が減った!「食品ロスの広報」が抱く夢

井出留美 office 3.11 代表取締役 食品ロス問題ジャーナリスト
井出留美 office 3.11 代表取締役 食品ロス問題ジャーナリスト
いで・るみ/奈良女子大学家政学部食物学科卒業。女子栄養大学大学院で修士号(栄養学)と博士号(栄養学)を、東京大学大学院農学生命科学研究科で修士号(農学)を取得。ライオン、青年海外協力隊、日本ケロッグを経て、東日本大震災での食料支援で食品廃棄の実態に衝撃を受けoffice3.11を設立。食品ロス削減推進法成立に協力。著書に『食べものが足りない!』(旬報社)、『賞味期限のウソ』(幻冬舎)他多数。第2回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門大賞、Yahoo!ニュース個人 オーサーアワード2018、20年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞(撮影/望月みちか)

編集部(以下、略) 講演、とても分かりやすくて興味深かったです。井出さんはさまざまな形で食に関するお仕事を続けていますが、もともと食に関心があったのですか?

井出留美さん(以下、井出) 5歳のころから食に興味があったんです。母がくず湯を作ってくれたのですが、加熱すると液体がゲル状になるのが面白くて眺めていたことを覚えています。高校1年生のときに食品成分表に興味を持ち、大学は食物学科に進もうと決めました。

 親が転勤族で転校を繰り返していて、高2のときに福岡から千葉に転校するために転入試験を受けたのですが、高校受験が終わったばかりなのにまた高校受験で少しうんざりしていましたし、福岡から首都圏への環境の変化になじめない。東京の大学に行きたくなくて奈良女子大に行ったんです。

研修旅行をきっかけにボランティアの道へ

―― 卒業後は食品メーカーに入らなかったのですね。

井出 実は卒業後は関西でビールメーカーに就職しようと思っていたのですが、大学1年のときに父が急逝したんです。まだ46歳でした。母が卒業後は千葉の家に戻ってほしいと希望したので、東京で就職活動をしてライオンに入社しました。

 ライオンの家庭科学研究所に配属され、消費者の立場でいろいろな商品を試して評価する仕事と、皮膚のシミ、シワの研究をしていました。実際にいろいろな人の皮膚の凹凸の型を取って調べるのですが、前任者が10人からサンプルを取っていたのに対して、私は100人のサンプルを集めようと決めて、年齢も性別も幅広い人たちを継続して観察したんです。大変でしたが個人差があることがよく分かりました。

 別のプロジェクトで社内の業務研究コンテストで準優勝して、東南アジアに研修旅行に行かせてもらったんですが、もともとアジアにも、ボランティア活動にも、そして食にも関心があったので、退職してJICA(国際協力機構)の青年海外協力隊(当時)に参加したんです。

 フィリピンで食品加工のプロジェクトを立ち上げました。言葉も初めは分かりませんでしたし、現地の食の嗜好も知る必要があって1年ほどは試行錯誤の日々です。現地で採れるモロヘイヤに着目し、揚げ春巻きに入れたり、乾かして粉末にしたり、お菓子にしたり、商品化して現地の女性たちがお金を稼ぐ手段をつくったりしました。