香取慎吾さんの3年ぶり国内2度目の個展「WHO AM I」が渋谷ヒカリエホールで開催中です(2023年1月22日まで。大阪、福岡などにも巡回予定)。闇と光の2つに別れたエリアに展示されているのは200作品。香取さんが語る闇と光、そして出会った「新しい自分」とは?
ある日、家の中に黒いうさぎが現れた
編集部(以下、略) 展示は闇のエリアから始まります。入ってすぐにある、黒いうさぎの赤い目から涙が流れている作品にいきなりくぎ付けになりました。立体作品も含め「くろうさぎ」のモチーフが複数展示されていますが、どのように生まれたんですか?
香取慎吾(以下、香取) ある日、自宅でテレビを見ていたら黒い物体、影のような何かがいるなあと思って。最初は虫かネコが入ってきたのかなと思ったんですが、だんだん輪郭が見えてきて、黒いうさぎっぽい。え、黒いうさぎがいる? みたいな。大きさは30、40センチくらい。ソファの陰から僕のほうをのぞいていて、何かがいると思ってそっちを見ると、ささっとソファの下に隠れる。見るたびに隠れるから目の錯覚? とも思ったんですが。空想というか、僕の頭の中で生まれた存在ですね。
今思えば、くろうさぎが現れたときは相当疲れていたんだろうなっていう感じです(笑)。
―― それ以降、ずっとくろうさぎが自宅にいるんですか?
香取 それこそ、さっきおっしゃった最初に展示した涙を流すくろうさぎを描いたらいったん消えたんです。僕の中で消化されたのかな。
―― 闇のエリアにあるスケッチブックに描かれたくろうさぎと、そこに添えられた言葉にも驚きました。
香取 たぶん一番は「上なんかむけないよ」っていう言葉ですよね。スケッチブックは出そうか迷ったんですけど、特にこの言葉は迷いました。あれはやっぱり……うん、「アイドル香取慎吾」としては絶対に言わない言葉。坂本九さんに教えられた「上を向いて歩こう」の精神で、皆さんと共に上を向いて、その先を目指してずっと生きてきたから。皆さんからパワーをもらって、僕も上を向いて歩いて来られたつもりだったのに、「上なんかむけないよ」ってびっくりしますよね。でも、ついさっき展示会場でもう一度見たら、他にもけっこうすごい言葉があって、出してて大丈夫なのかなと思ったくらい(笑)。
あのスケッチブックに描いたのは年代も明確じゃなければ、作品タイトルもないんです。でもスケッチブックの表紙には「2003年」らしき数字が書いてあって。20年前ってことですか? って自分でも驚いて。くろうさぎが生まれたのは15年くらい前、僕が30歳くらいのときだと思っていたんだけど、もっと前ってことなんだと。
―― 03年は主演したNHK大河ドラマ『新選組!』の撮影に追われていた頃ですよね? 放映は04年だったので。