人生における「逆転の一冊」を聞くリレー連載。今回は、『三千円の使いかた』が累計86万部を突破、ドラマ化されるなど注目を集める作家・原田ひ香さんに聞きました。原田さんに2つの意味で逆転をもたらした、衝撃の一冊とは?
(上)作家・原田ひ香が選んだ逆転の一冊『老人たちの裏社会』 ←今回はココ
(下)37歳で退路断ち『三千円の使いかた』がヒットするまで
2つの意味で「逆転」した衝撃の本
編集部(以下、略) 原田さんの著書は、三世代、4人の女性たちがお金や人生の悩みに向き合い、乗り越えていく“節約家族小説”の『三千円の使いかた』や『ランチ酒』シリーズなど、心にじんとしみる温かな小説が多い印象ですが、今回、逆転の一冊として挙げたのは、『老人たちの裏社会』(新郷由起著、宝島社)。原田さんの小説からは思いもよらないタイトルです。
原田ひ香さん(以下、原田) 小説にするか、それ以外にするか、すごく迷ったんです。子どものときは『ファーブル昆虫記』を読んで夢中になったとか、その時々で影響を受けた本はたくさんあるのですが、この本はまさに衝撃を受けた本です。万引き、ストーカー、DVや売春など、報道されないまさに老人たちの「裏」社会を著者の新郷由起さんが丹念にルポされていて、迫力と面白さに引き込まれます。
私にとっては2つの意味で逆転の一冊になりました。
1つは、漠然とイメージしていた老人問題について、全く違うすごみを突きつけられて、意識が大転換したという意味の逆転です。もう1つは、私の小説の3つの柱は、お金、食べ物、本をテーマにしたものだったのですが、『老人たちの裏社会』との出合いで「老人問題」を4つ目の柱にしてやっていこうと思うきっかけを与えてくれたことです。実際、この本で小説を3本書けたというか、小説の参考図書として3回ほど使わせていただいています。