人生における「逆転の一冊」を聞くリレー連載。(下)では、作家・原田ひ香さんに『三千円の使いかた』が、2022年度のベストセラー1位となり、累計86万部を突破するまでのキャリアについて聞きました。

(上)作家・原田ひ香が選んだ逆転の一冊『老人たちの裏社会』
(下)37歳で退路断ち『三千円の使いかた』がヒットするまで ←今回はココ

編集部(以下、略) 原田さんの作品は『一橋桐子(76)の犯罪日記』『三千円の使いかた』(中公文庫)が2022年、23年に相次いでドラマ化されました。原田さんももともとはドラマにかかわる仕事をしていたんですよね。

原田ひ香さん(以下、原田) そうです。30代はドラマのシナリオを書く仕事をやっていました。そのときにしみじみ思ったのは、1冊の小説って2時間ドラマや映画にするには長いけれど、5回とか1クールにするには短いんですよね。本を原作にドラマをつくるのは本当に難しいなっていうことを常々思っていました。

 『三千円の使いかた』はかなり小説に沿った内容のドラマですが、全8回にすると原作だけではちょっと足りないので、最後はオリジナルのストーリーをつけてくださいました。一橋桐子は松坂慶子さんが原作よりもドジで生真面目な姿に演じてくださって、やはり全5回にするためには、いろいろな話を混ぜてくださっています。

―― ドラマと原作とで違いが生まれることに、抵抗はありませんか?

原田 いえいえ、むしろとてもありがたいことです。ドラマをつくる大変さは身にしみていますしね。『三千円の使いかた』で少し変更したいというお話を聞いたときも「どうぞどうぞ、お好きなように」とお答えしたんです。

原田ひ香(はらだ・ひか)作家
原田ひ香(はらだ・ひか)作家
1970年、神奈川県生まれ。2005年「リトルプリンセス2号」が第34回NHK創作ラジオドラマ大賞最優秀作に。07年『はじまらないティータイム』で第31回すばる文学賞受賞。『三人屋』『ランチ酒』シリーズ、『ミチルさん、今日も上機嫌』『三千円の使いかた』『財布は踊る』など著書多数

―― シナリオライターはどういう経緯で始めたのですか?

原田 大学を卒業してしばらく秘書として会社勤務をした後、29歳で結婚。すぐに夫が北海道に転勤になり、仕事を辞めてついて行きました。家にいながら何かできることはないか、インターネットで見つけたのがシナリオの書き方を解説したページでした。それに沿ってやってみたらシナリオが書けたので、フジテレビヤングシナリオ大賞に応募して、最終選考に残ったのです。