赤坂の雑居ビルの一角にある桃源郷のような「昼スナックひきだし」。今回は54歳で博報堂を早期退職し、社会福祉士を目指して勉強中という男性が実名でご登場。同じ国家資格取得を目指す紫乃ママとは受験仲間だといいます。真っ昼間からグラス片手に、特濃スナックトークが始まります。

日経新聞を見て心が揺れるのは「おじさんの乙女心」

紫乃ママ 半年前でしたっけ、私が社会福祉士の勉強をしていると聞いて来店してくれたんですよね。定年前に天下の博報堂を辞めて社会福祉士を目指すなんて、ほんと物好き。以前来店した男性が「同期の出世情報が載る日経新聞を読むのがつらい」っておっしゃっていたけど(「『must』に縛られてきた56歳エリート男性の苦悩」)、八田さんは日経新聞を見ても心がザワつかないタイプなんだね。

八田一郎さん(以下、八田) いや、やっぱり以前は気にしていました。同年代の出世事情が気になるのは、大企業に勤めるおじさんの乙女心ですよ。でも、そういう気持ちは会社を辞めてなくなりましたね。

今日の来店客 八田一郎さん(55歳、既婚・子ども2人)
1993年、慶応義塾大学を卒業後、博報堂に入社。営業局で25年間、大手クライントを担当。50歳のとき管理部門に異動し、静岡博報堂の執行役員として単身赴任。4年の地方勤務の経験から「静岡愛」が芽生え、2022年3月に同社を早期退職。今は社会福祉士の資格取得の勉強をしながら、福祉の現場で修業中。ゆくゆくはお世話になった静岡で地域福祉に貢献したいと考えている。

紫乃ママ ザ・広告代理店マンがまたどうして社会福祉士に興味を?

八田 大きな理由が2つあって。1つは静岡に4年間、単身赴任して「地域」を意識したこと。もう1つは55歳手前で、いわゆる「たそがれ研修」を受けたこと。定年までの会社員生活を考えたら、元気なうちに辞めて個人として社会とちゃんと対峙(たいじ)したい。それを、今までとは全く別の分野でやるのも面白いなと。それに、世の中には生きづらさを抱えている人も多いから、何か力になりたいと思ったんです。まあ50歳を超えて、急に社会貢献したいって思う人は多いですよね。

紫乃ママ えー、なんとまっとうすぎる理由。今までの罪滅ぼしかしら(笑)。さかのぼりますけど、東京を出たことのない八田さんが、最初に静岡への異動の話を聞いたときはどう思ったの?

八田 そのときは「何かやらかしたかな?」って。実は49歳のとき、このまま営業で現場を続けるのは厳しいと思って上司に職種転換の相談をしたら、管理部門に移ってはどうかとアドバイスをもらって「ぜひ!」と答えた数日後にいきなり部長研修を受けろと言われたんです。で、研修を受けた数週間後に静岡の子会社に執行役員として出向の内示が出た。

社会福祉士の資格取得に向けて、鋭意勉強中の紫乃ママ。「福祉とビジネスの世界をつなぐためにできることを考えていきたい」
社会福祉士の資格取得に向けて、鋭意勉強中の紫乃ママ。「福祉とビジネスの世界をつなぐためにできることを考えていきたい」