赤坂の雑居ビルの一角にある桃源郷のような「昼スナックひきだし」。紫乃ママの元に、70代の性を描いた小説『疼くひと』で話題を呼んだ作家、松井久子さんがご来店。松井さんは新作『最後のひと』を出版したばかり。そのヘッドコピーは「75歳になって、86歳のひとを好きになって、何が悪いの?」。実生活でも2022年に再婚した松井さんと紫乃ママが70代の恋愛と結婚について語り合います。

(上)75歳と86歳の結婚 作家・松井久子が描く最後の恋 ←今回はココ
(下)若い、かわいい…を超え「70代こそ女性の恋愛適齢期」

紫乃ママ いらっしゃいませ。今日は来ていただいてありがとうございます。

松井久子さん(以下、松井) もっと早く来たかったんだけどね。私、お酒が飲めなくて。

松井久子 小説家・映画監督
松井久子 小説家・映画監督
まつい・ひさこ/1946年東京都生まれ、早稲田大学文学部演劇科卒。雑誌のライター、俳優のマネージャー、テレビ番組のプロデューサーを経て、98年『ユキエ』で映画監督デビュー。2002年に製作・脚本・監督を務めた『折り梅』が公開、2年間で100万人の観客を動員。10年、日米合作映画『レオニー』の脚本・監督。21年、70代の性を描いた小説『疼くひと』(中央公論新社)がベストセラーに。22年、第2作『最後のひと』(同)を出版

実話をベースにした70代の恋愛小説

紫乃ママ 70代の性を描いた前作『疼くひと』もすごく面白かったですけど、新刊『最後のひと』では75歳と86歳の恋愛を描いていて。松井さんご自身も80代の思想史家とご結婚されたばかりだから、フィクションのようなノンフィクションのような……。すごく格好よくて最高だと思いました。

松井 映画『折り梅』や『レオニー』の脚本を書いたときも、事実(実話)を足掛かりに真実を描くというのが私の表現者としての基本姿勢。私自身も再婚したから、どうしても小説と私の実話を重ねる方が多いと思うけど それは書くときから覚悟の上でした。文学に昔からある「私小説」といわれるには抵抗があるけど。できるだけ事実から離れたいと思ったけど、やっぱり事実には大きな力があるんですよね。

 小説の題材にする前に、先生(編集部注:松井さんの再婚相手)に「書いていいですか」と聞いたら、「今は孤独でさびしい老人が多いから、何か希望につながるものなら書いてみるといいよ」と言ってくれた。最初に親しくなったきっかけも、妻をみとった高齢男性の気持ちを取材したかったからでした。

 小説には男性側の視点をもっと入れたかったけれど、編集者といろいろ相談して男性パートはだいぶ減らしたんです。前作『疼くひと』が売れたのは「私たちの未来」として女性が共感したからというのが編集者の分析だったので。でも、『疼くひと』も読者の3割は男性でした。

紫乃ママ 私の友人男性も『疼くひと』を読んで、男性にとっても希望が持てる話だと言っていました。最近よく、50代の男性から「恋がしたい」っていう声を聞くんです。でも現状は、なかなか恋なんてできない。

70代の性を描いた小説『疼くひと』はベストセラーに。続編となる『最後のひと』では、主人公・唐沢燿子のその後の恋愛が描かれている
70代の性を描いた小説『疼くひと』はベストセラーに。続編となる『最後のひと』では、主人公・唐沢燿子のその後の恋愛が描かれている