赤坂の雑居ビルの一角にある桃源郷のような「昼スナックひきだし」。紫乃ママの元に、70代の性を描いた小説『疼くひと』で話題を呼んだ作家、松井久子さんがご来店。新作『最後のひと』では実体験を元にした恋愛を描いています。「老いの恋愛は知的な作業」という松井さんに、75歳の恋愛、そして性のリアルを紫乃ママが深掘り。まさに未知の領域です!

(上)75歳と86歳の結婚 作家・松井久子が描く最後の恋
(下)若い、かわいい…を超え「70代こそ女性の恋愛適齢期」 ←今回はココ

性愛を描いた前作に、同世代からは厳しい反応

紫乃ママ 男女とも個人が自立していて、好きだから一緒にいるって関係は健全ですよね。周りを見ていると恋愛は非効率だとか、もう自分の年だと必要ないってカギをかけちゃう人が多いけど、それはもったいない。松井さんの作品を読むと、恋愛が持つあの醍醐味をむずむずっと思い出して心が動きます。

松井久子さん(以下、松井) 前作『疼くひと』で性をテーマにしたとき、紫乃さんのような下の世代の方たちからはたくさん支持してもらえたけれども、同世代の反応は悪かった。批判して、去っていった友達もたくさんいましたよ。

紫乃ママ えーそうなんですか? どうしてなんだろう?

松井久子 小説家・映画監督
松井久子 小説家・映画監督
まつい・ひさこ/1946年東京都生まれ、早稲田大学文学部演劇科卒。雑誌のライター、俳優のマネージャー、テレビ番組のプロデューサーをへて、98年『ユキエ』で映画監督デビュー。2002年に製作・脚本・監督を務めた『折り梅』が公開、2年間で100万人の観客を動員。10年、日米合作映画『レオニー』の脚本・監督。21年、70代の性を描いた小説『疼くひと』(中央公論新社)がベストセラーに。22年、第2作『最後のひと』(同)を出版

「70代こそ女性の恋愛適齢期」

松井 70代にもなって「まだそんなこと考えているの?」って。老いたら性の問題は卒業するのが当たり前っていう人が多い。社会学者の上野千鶴子さんは例外でしたけど。彼女に以前、結婚しなかった理由を聞いたら「性的な身体の自由を奪われたくなかったからよ」と言われてドキッとしたけど、けだし名言。

 日本社会で普通に結婚して「いい妻」として頑張ってきた人は、性の自由を奪われてきた。そこに潜在的な怨念のようなものがあるかもしれない。だから、むしろ40代、50代の女性のほうが「70代でも恋愛できる」ということに希望を感じてくれたのかもしれませんね。

紫乃ママ そうそう。大先輩の恋愛は圧倒的に希望です。

松井 結婚した女性は40代、50代は子育てや仕事に忙しいし、おひとりさまを選んだ女性たちは仕事以上に魅力のある男性と恋愛することが難しい。とにかく女たちの人生はずっと忙しくて、60代になってもまだ親の介護がある。だから、子育てや仕事、介護が終わった70代こそ女性の恋愛適齢期なんです。途方もないと言われそうだけど、そういう文化を根付かせたいと思っています。