ARIAの人気連載「昼スナックママに人生相談」が、doorsに出張です! 赤坂の雑居ビルの一角にある桃源郷のような「昼スナックひきだし」の紫乃ママのもとに、新刊著書で能力至上主義の社会を喝破し「責められるべきは、あなたの能力だけではない!」と説く、組織開発の専門家・勅使川原真衣さんがご来店。スナックトークが始まります。

「このままじゃ死ねない…」と書き上げた一冊

紫乃ママ いらっしゃい。あら、真衣さん。

勅使川原真衣さん(以下、勅使川原) お久しぶりです!

紫乃ママ 『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)、頭がもげるほどうなずきながら読みましたよ~。でも、人材開発業界という「能力社会」をあおって稼いでいるような業界で働いてた真衣さんが、あ、私もだけどさ、なぜ能力至上主義に警鐘を鳴らす本を書いたの? 「能力という魔物」なんていう言葉も使って。

勅使川原 大きなきっかけは、ステージ3Cの乳がんが見つかったことです。小さな2人の子どもの成長を見届けられないかもしれないと思ったときに、このままじゃ死ねないなと。これまでに仕事の壁にぶち当たって、もがき苦しむ新卒社員、入社2年目の若者をたくさん見てきたんです。私の子も要領がいいタイプではないので、将来苦しむに違いない……書けるうちに書き残しておこうと思ったんですよね。

勅使川原真衣
勅使川原真衣
てしがわら・まい/1982年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学卒業、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。ボストン・コンサルティング・グルーブ、ヘイグループ(現コーン・フェリー・ジャパン)など外資系コンサルティングファーム勤務を経て独立。2017年に組織開発を専門とする、おのみず株式会社を設立し、組織開発を支援する。20年から乳がん闘病中

紫乃ママ ステージ3はなかなか重い。文字通り命がけでお書きになった本だったのね。真衣さんは、プロフィルを見ると外資系人材コンサルとか能力主義の権化みたいな会社にいたみたいだけど、今は具体的にはどんな仕事をしているの?

勅使川原 企業や病院、学校などの「組織をよくする」お手伝いです。まずは組織を観察して、問題があるとしたら解決案を提示して、それを実行する段階までコンサルタントとして関与します。多くの企業を見てきましたが、みんなそれぞれ頑張っているのにかみ合っていない。結果的に不協和音が鳴り響くことが多々あり、若者が割を食わされている場面もちらほら見ました。

 組織に何か問題が起きているとしたら、その原因は「個人の能力」だけにではなく、人と人、もしくは人と仕事との関係性にあります。1人の能力が低くて、その人だけが悪者なんてことはそうそうない。周囲との相性や会社の仕事の与え方が悪い、つまり環境に問題があるケースのほうが多いんです。人事評価も結局は、上司や仕事との相性で評価しているようなものなのに「あいつは○○力が足りない」とかすぐ言い始めるじゃないですか。

紫乃ママ 組織開発と呼ばれてるやつね。何かの本で読んだけど、日本の組織を動かしているのって、評価じゃなくて実は評判だとか。誰かが「どうも今年の新人はいまいちだな」とか言ったらそれがじわじわ広がって、いつの間にか「そうだそうだ」ってなって。でも、本人には直接何も言わないの。

「個人の能力に責任を負わせる『能力主義』の主張にある違和感を拭えない」と話す勅使川原さんこん身の一冊、『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)。死んだ母親と23歳の息子、高校生の娘の3人が対話を重ねながら「能力」についてひも解いていく。右はARIAの連載を収録した紫乃ママの著書
「個人の能力に責任を負わせる『能力主義』の主張にある違和感を拭えない」と話す勅使川原さんこん身の一冊、『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)。死んだ母親と23歳の息子、高校生の娘の3人が対話を重ねながら「能力」についてひも解いていく。右はARIAの連載を収録した紫乃ママの著書