何かを成し遂げて順風満帆そうに見える人も、実はそう見えるだけで、思い通りにいかず悔しくて、泣いて、落ち込んで…「失敗だらけの道」を歩んでいるのかも。先輩たちの失敗談に、転機の乗り越え方、転び方、失敗を最高の糧にするヒントを学ぶ連載「最高の失敗図鑑」がリニューアル。さらに先輩たちの失敗に迫ります。今回は、デビュー30周年を迎えた古内東子さんに聞きました。
(上)恋愛の教祖と呼ばれて…本心を歌い思わぬ失敗 ←今回はここ
(下)今になって後悔…50歳を迎えて学び直し欲
1993年、大学1年時にメジャーデビューを果たし、「誰より好きなのに」や「大丈夫」、CMソングとして口ずさんだ人も多い「Beautiful Days」など、多くのヒット曲を生み出してきた古内さん。自身の体験をベースに、何気ない言葉で切ない恋心を鮮烈に描き出す古内さんの曲は多くの人を魅了し、その創作スタイルから、「恋愛の教祖」とも呼ばれた。しかし、恋愛体験をまっすぐに自分の言葉で歌ってきたからこその、ある失敗があるという。
「君」は期間限定の言葉だった
「20代前半の頃の私は、まだ昭和的なマインドを引きずっていて。そこからの切り替えが難しかったですね。わが家は父の言うことが絶対で、母は口答え一つせず、三歩下がって付いて行くという、まさに『昭和の夫婦』そのもの。今は違いますけどね(笑)。そういうのを見ながら育ったことは、男女の関係性や恋愛観にも影響があった気がします。そんな中で曲を書き始めたので、今聞くと、自分でも『古っ』て感じるものがあるんです」と古内さんは語る。
女性は男性の後ろを付いていく時代から、隣に並んで歩くことが当たり前に……という時代の変化を感じながら古内さん自身の恋愛観も変化。次第に書く歌詞も変わっていった。「デビューしてからずっと歌詞の中で恋愛相手のことを『あなた』と呼んでいたのですが、少しずつ変わっていって。2000年に入った頃から、『君』って呼んでみたりしました」。20代で憧れたのは年上の男性。30歳になると年下の男性にひかれることもあり「君」と呼びかけるのが自然になっていった。
「でも今、このときと同じニュアンスで男性のことを『君』っていうと、ちょっと怖いじゃないですか。そう感じたら、『君』が歌詞で使えなくなっちゃいました。『君』はすごく期間限定の言葉。単に作詞する上での私の主観というか、美学なんですが」