近年、フリーランスの働き方に注目が集まっています。独立して稼ぐなんて自分には無理…会社員生活が長い人ほどそう考えがちですが、「仕事も収入も不安定なフリーランスの生き方・働き方を知ることは、お金の不安に翻弄されず、人生後半をポジティブに生き抜く力を身につけることにつながる」と話すのは、長年「フリーランス会計士」として活動してきた田中靖浩さんです。誰もが実践できるフリーランス・マインドの育て方を田中さんが解説します。

(1)40~50代社員に今こそフリーランス・マインドが必要
(2)フリーランスは「不安定」が稼ぐ原動力になる ←今回はココ
(3)人生後半はスキルよりもキャラクターを磨こう

「フリーランスでも安定収入を得られる道」を選ばなかった訳

編集部(以下、略) 前回、「フリーランスは3カ月後、半年後の収入が分からないから、どうすれば生きていけるか常にアンテナを張って動き続ける」というお話がありましたが、会社員がフリーランスに対してまず抱くイメージは「不安定な働き方」かもしれません。

田中靖浩さん(以下、田中) その通りです。会社員は、いろいろ思うところはあってもとりあえず我慢しておけば給料をもらえるのに対し、「もしかして半年後の収入がないかもしれない」という不安と戦わなければいけないのがフリーランスです。

 ただ、私の場合、会計士という資格を利用すればフリーランスになっても安定収入を得られる方法がありました。お客さんと顧問契約をして、決算書や確定申告書類の作成、月々の帳簿の記載などを引き受ければ、月にいくら、年間でいくらと定額収入が得られます。ある程度定型業務にしてしまえば、1件分も5件分も手間はそこまで変わりません。顧問先を増やしていけばそれなりの収入になります。

 そのような顧問契約で生計を立てている会計士や税理士はたくさんいます。しかし私は会計士なのに会計の仕事をやりたくないし、得意でもなかった。これは決定的な問題でした。

 「マズローの欲求5段階説」で有名なアブラハム・マズローは、人間の欲求に関して「D動機」と「B動機」という区別をしています。Dは不足や欠乏を意味するDeficiencyのことで、足りないものを埋めようとする欲求。食べ物がない、家がないといった欠乏状態から抜け出すための義務感で働くのは、「D動機による労働」ということになります。これに対してBはBeing(あるがまま)という意味。義務感とは無関係に、やりたいからやる仕事は「B動機による労働」です。

 私は生活のために我慢して働くことをDモード、好きでやる仕事をBモードと言っています。顧問契約で会計・経理業務を請け負うことは、私にとってDモードで働く道を選ぶということでした。

「私は会計士なのに会計の仕事をやりたくないし、得意でもなかった。これは決定的な問題でした」
「私は会計士なのに会計の仕事をやりたくないし、得意でもなかった。これは決定的な問題でした」