テクノロジーと経済が変化しても旧態依然な企業や組織のあり方に閉塞(へいそく)感や違和感を抱くすべての人に、「一人のリーダー、一人のメンバーでも組織は変えていけます」と発信するビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授の斉藤徹さん。「何度もどん底を経験した連続起業家」が、「幸せ視点の経営学を話す先生」の顔を持つまでのプロセスを振り返り、チームにとって必要なリーダーのあり方や価値観を考えます。

(1)ChatGPTが起こす変革 組織や仕事はどう変わる?
(2)4回のどん底を経て覚醒した経営者の「幸せ視点経営」 ←今回はココ
(3)「主体的に与えられる人」になると人生は豊かに変わる

 前回は、Chat GPTの登場に象徴されるような急激な変化を続けるこの世界の中で、組織や個人のあり方はどう変わるのか? という問いで終わりました。結論から言えば、僕たちの心の部分や、高度な人間関係の重要性は変わらないと思っています。そして経営者は視点を、「お金」から「幸せ」に移すことが求められています。これは経営者に限らず、リーダーにも働く人にも言えることです。

 なぜそう思えるのか。数では誰にも負けない僕の経営者としての失敗を振り返りながら、お伝えしていきましょう。

4度の倒産危機、なぜ失敗を繰り返したのか

 僕は1991年、29歳で日本IBMを退職してベンチャーを創業しました。未上場で時価総額 100億円を超えたこともあります。その結末がどうなったかは、僕の半生をグラフ化した図をご覧ください。これまでに4回の危機と再生を経験しました。

 かつて、ジャック・ウェルチという「20世紀最高の経営者」と称された経済界のスーパースターがいました。81年に米国ゼネラル・エレクトリック(GE)社のCEO(最高経営責任者)に就任し、在任20年で株価は30倍に。彼の活躍以降、MBA、M&A、リストラ、成果主義が世界的なブームとなりました。彼が目指す「勝つこと」とは、結局「自社がすべてを独占すること」なのではないかという批判もありましたが、僕は純粋に尊敬していました。

 「競争に勝って、利益と規模を追求する」タイプの経営者は、「業界でNo.1になって利益を独占したい」→「相乗効果のある新業界に参入して利益を独占したい」→「世界で最も価値のある会社になりたい」と夢を膨らませていきます。もし本当に勝てれば、株主と経営者に大金が入り、成功者とたたえられる。しかし失敗すれば、短期利益を求める株主から容赦なくクビにされる。経営者は常に、そんな恐れに駆られてもいます。

 しかし、そもそもお金や地位や影響力で本当に経営者は幸せになるのだろうか? 僕はこのシンプルな問いを、4回目の失敗の後で自分に突き付けることになります。