1988年に『ボーイフレンド』で第33回小学館漫画賞を受賞。その後『MARS(マース)』など多数の作品を主に少女漫画誌で発表してきた惣領冬実さん。40代で活躍の舞台を青年漫画誌に移し、『チェーザレ 破壊の創造者』は、累計発行部数140万部を超える歴史漫画となりました。まもなく64歳を迎える現在は番外編を執筆中。今回は、少女漫画家としての惣領さんの代表作『ボーイフレンド』や『MARS』の創作秘話を中心に、「はね駒」のあだ名を編集者たちから付けられつつも、自分が追求したい創作表現を求めて挑戦を続けた惣領さんの創作のこだわりに迫ります。

(1)惣領冬実 父の死でプロの漫画家として生きる覚悟決めた
(2)惣領冬実「MARS」で自分なりに少女漫画の限界に挑戦 ←今回はココ

6回で打ち切りとなった『ボーイフレンド』、読者の支持を得て再開

 25歳で上京し、初めての長期連載になったのが1985年から88年に『週刊少女コミック』(小学館)に掲載された『ボーイフレンド』でした。スポーツ万能だけれど気性が激しく素行にやや問題がある男子高生・高刀柾(まさき)と、心臓に持病を抱える病弱なクラスメート・結城可奈子が引かれ合う恋愛青春物語です。

 のちに小学館漫画賞をいただいた作品ですが、実は、連載当時6回目ぐらいでいったん打ち切りになったことがあります。主人公の男の子が優しくない。少女漫画に出てくる男の子は、周りの誰もがあこがれる王子様のようなタイプでないと読者に支持されないからという理由でした。当時の編集担当者は30代の男性で、編集長は40~50代の男性。私が「ダークで危険な香りのする男の子に魅力を感じる少女はたくさんいますよ」と言っても、聞く耳を持ってもらえませんでした。編集者が求めるキャラクター設定と折り合わずに打ち切りとなったのですが、打ち切り後、「なぜ終わってしまったのか?」「連載の続きが読みたい」というような読者の意見が編集部に届いたそうです。

天性の運動神経を持つ柾と、病弱で心臓疾患を持つ可奈子を中心に思春期の心を描いた『ボーイフレンド』。繊細さと優しさの中に強さを秘めた女性の姿を描いた。作品内には、夫の亭主関白と男尊女卑の価値観に腹を据えかねて、柾の母親が4人の子を置いて家出をするシリアスなシーンも。(C)惣領冬実/小学館
天性の運動神経を持つ柾と、病弱で心臓疾患を持つ可奈子を中心に思春期の心を描いた『ボーイフレンド』。繊細さと優しさの中に強さを秘めた女性の姿を描いた。作品内には、夫の亭主関白と男尊女卑の価値観に腹を据えかねて、柾の母親が4人の子を置いて家出をするシリアスなシーンも。(C)惣領冬実/小学館

 編集長から「連載の続きはどうする? 描く?」と聞かれたので、私は「続けられるのならコミックス5巻分くらいは構想していたので描いてみたいです」と答えました。連載を続けていくに従って、人気が出てきて最終的には10巻の長編作品になりました。

 10巻分を描き終える頃、編集部には私のほうから「連載をもう終わります」と伝えました。物語としての見せ場はすでに終わっていたので、続きを描くことはできても、同じことの繰り返しとなってしまいます。でも、連載早々に打ち切りを言い渡した編集長が「読者に求められているうちは描き続けるべきだ。人気作品に有終の美はない」と言うので、その手のひら返しについ笑ってしまいました。