3年ぶりに新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令されなかったゴールデンウイーク。麻衣は、連休から日を少しずらし、宿泊料の安い日に都内のホテルに1泊し――。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ
第9話 その後ろ姿を見ていたら、急に切なくなった
第10話 がんは知らないうちに母の体の中で育っていた
第11話 なにが「同期初の女性部長」だよ!
第12話 「女性ということで」とは一体どういう意味か
第13話 わたしはわたしで、仕事をし、家族を守る
第14話 仕事が長続きしないのは、いつも人間関係にあった
第15話 自分がちっぽけで価値のない存在のような気がした
第16話 不思議と、西には自分のことを話したいと思った
第17話 気づくと、実家に彩子の居場所はなくなっていた
第18話 育休明け直前、世界は混沌とした状態に陥った
第19話 夫は子の意味不明な行動が我慢できないようだった
第20話 かつては泣きわめく子がいると、運が悪いと感じていた
第21話 笑えなかったのは、夫婦関係がうまくいっていないから
第22話 黙ると夫の機嫌が直る、そのパターンに慣れていた
第23話 離婚という選択肢が、くっきりと目の前に現れた
第24話 香水を付けるようになったのは、アルバイトを始めてから
第25話 あの時、若い女は得していると思っていたのが歯がゆい
第26話 その時初めて、正社員との間にある溝がくっきりと見えた
第27話 ママになり変わってしまった菜々の姿が少し怖かった
第28話 求婚というより、許可を出された感じがした
第29話 憧れてたインフルエンサーという立場に、ようやくなれた
第30話 好きなこと、自己実現… 自分の求める生き方に気づいた
第31話 やっと愛美に認めてもらえた気がして、うれしかった
第32話 それはママ友に頼めないことなのだろうか←今回はココ

■今回の主な登場人物■
板倉麻衣…新卒で入社した食品メーカーをやめ、今はYouTubeでVlogを発信している
江原愛美…麻衣の食品メーカー時代の同期。同期の中では早く昇進し、産休・育休を経験したワーキングマザー

なかなかいい絵が撮れた

 ひと月がたった。

 今年のゴールデンウイークは、3年ぶりに新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令されず、そのため、前年を大きく上回る旅行客が日本中にあふれた。

 特に首都圏近郊の有名な観光地は、前年どころか、コロナ禍に入る前よりも人出が増えたという。数年の間、自宅に軟禁されていた人々の心の中で、旅行熱はじりじりくすぶり続けていたのだろう。満室や渋滞のニュースがひとしきりメディアを騒がせた。

 そんな中、麻衣は、ゴールデンウイークから日を少しずらし、宿泊料の安い日に都内のホテルに1泊した。「30代女子の1人ホカンス」というテーマのVlogを撮影するためである。

 ホテルで過ごすために、シトラス系の清潔で上品な香りと、ウッド系の自然で優しい香り、の2種類を持参した。シトラス系はストレス緩和につながるし、ウッド系はリラックス効果が期待できると言われている。安眠のための香水作りというVlogをいつか作ろうと思っているが、その前置きのような感じで、紹介しようと決めていた。

 投稿動画がそれなりに支持を集めるようになってから、麻衣はミラーレス一眼レフのカメラを使っている。これは、両親から麻衣への32歳の誕生日プレゼントで、小型でかわいらしい形状でありながら、きめ細かい映像が撮れる。

 窓からスタイリッシュなオフィス街を見渡せる有名ホテルを選び、夕食はルームサービスにした。くつろぐ様子、食べる様子、メイクを落とす様子……カメラで適宜、ポーズを整えつつ撮影した。録画したものの確認をしつつ、色調などに手を加えてサムネを作る。ホカンスをうたいながらも実際はほとんどくつろいでいない。しかし、なかなかいい絵が撮れたと満足している。