これまで女子生徒が敬遠しがちと思われてきた理工系分野への進学。「ジェンダーの失われた30年」といわれるほどのジェンダー発展途上国である日本の状況を変えるべく、2022年に名古屋大学をはじめ、主に国立大が理工系の学部で「女子枠」を導入することを発表するなど、教育現場が動き始めています。中でも、東京工業大学の女子枠は、募集人数が143人と異例の規模で話題に。同校の学長を務める益一哉さんに理工系分野に進む女子学生を増やすべき理由や、性別に関係なく子ども理工系への興味を育てるために親が心掛けるべきことなどについて聞きました。
ついに教育現場が動き始めた
男性は理系科目が得意で、女性は苦手。理系の仕事は危険を伴ったり長時間労働になったりすることが多いから女性には不向き――。このような、根強く存在する「理系=男性」という固定観念に加えて、実際に理系分野は女性がマイノリティーである場合が多く、同性のロールモデルが少ない実情が、女子生徒が理系の進路を選択することを阻む要因になってきました。
本来、能力的に男性、女性の違いはないはず。しかし、女子生徒が理系に進まないことで理系人材が限定され、それが日本全体の経済成長を鈍化させてきた面もある、と指摘する専門家は少なくありません。こうした状況を背景に、教育現場が理工系分野のジェンダーギャップを解消しようと、ついに動き始めました。23年度大学入試から、名古屋大学が工学部の2学科で、富山大学が工学部工学科の3コースで、島根大学が23年に新設される材料エネルギー学部で「女子枠」を相次ぎ新設。東京工業大学(以下、東工大)も22年11月に、24年度入試から25年度入試にかけて143人の「女子枠」を導入すると発表しました。
理工系分野にも広く門戸が開かれていくようになれば、女の子の将来の選択肢も大きく広がります。子どもが性別に関係なく、理工系の道に進む可能性を育むべく親ができることとして「子どもの持っている興味の芽を絶対に摘まないこと」と東工大学長の益さんはアドバイスします。
「本来、小中学校の間は、誰もが同じ教科を習うという点で、少なくとも興味は等しく持っているはずです。男の子は算数・数学や理科が得意で、女の子は苦手だというアンコンシャス・バイアスを一旦捨てて、子どもの興味を失わせないように、好きをちゃんと伸ばしてあげることに尽きるのではないでしょうか」
そんな益さんに、東工大の「女子枠」の制度の詳細とともに、「理工系分野に女性を増やしていくべきだ」と考える理由や、実際に理工系を志望する女子を増やすために大学がすべきことなどについて詳しく聞いていきます。
・「143人」を必ず受け入れるわけではない
・多様な人がいる環境は、男性の生き方にもプラスの影響を及ぼす
・女子高校生の理工系志望者を増やすために大学がすべきこと
・大学で理工系分野の女子学生を増やす動きの背景に、文部科学省の通達の存在がある