このほど『冒険の書 AI時代のアンラーニング』(日経BP)を出版した連続起業家の孫泰蔵さん。学びをテーマにした本書には現代の教育に対する孫さんの疑問と、探究によって導き出したその解がつづられています。では、現在子育てまっただ中の親は、子どもに対してどう向き合う必要があると孫さんは考えているのでしょうか。3回にわたって、孫さんの子育て・教育論をお届けします。
前編 本を300冊読んで教育について考えてみた ←今回はココ
中編 孫泰蔵 とにかくわが子を褒めまくる親に育てられた
後編 親子対話では答えを先に言わないほうがいい
長年続く縛られた教育
日経xwoman DUAL(以下、略) 孫さんがこのほど出された『冒険の書 AI時代のアンラーニング』(日経BP)、まずタイトルが興味深いですね。「冒険の書」はゲーム『ドラゴンクエスト』のセーブファイルの呼び名でもありますけど、読み進めてみるとドラクエのボスのような感じで古今東西の偉人が次々と孫さんの目の前に現れてきます。もちろん戦うわけではないですが、偉人との対話などを通じて孫さんが学びや教育について知見を得ていく様子は、ゲームで「経験値」を得ていくのと重なります。
本書は、父から子への手紙形式で話が始まります。書かれているのは、学校に行き渋る子どもが「なんで学校に行かなきゃいけないの?」と父に尋ねる場面。そこで父自身もかつて同じような疑問を抱いていたことを思い出し、答えを求めて偉人たちの教えに触れる「探究の旅」に出るというストーリーです。
孫泰蔵さん(以下、孫) 私自身もそうでしたが大半の子どもは学校へ行くことや勉強することに対してそんな疑問を持っていると思いますし、親御さんの多くも子どもから尋ねられた経験があるんじゃないかと思います。でも、この疑問に端的に答えるのは難しい。

―― 確かに、「なんで学校に行かないといけないの?」「どうして勉強するの?」は、どの親も問いかけられた経験があるかもしれません。孫さん自身は、東京大学を卒業されているということもあり、勉強に前向きに取り組んでこられたのかなと勝手に思っているのですが、子ども時代からそんな疑問を抱いてこられたんですね。
孫 大人になっても持っていましたよ。浪人もした大学受験の頃は「勉強するのは入試に合格するため」という意味しか見いだせていませんでした。本当にあの頃は勉強するのが苦痛だった。ノイローゼの一歩手前だったんです。だから、あの頃を振り返るたびに「本当にあれでよかったのか?」と引っ掛かっていました。
それで、あるとき、「なんで学校に行くんだっけ?」「なんで勉強するんだっけ?」という疑問を晴らすために、片っ端から今の教育システムの成り立ちに関係してそうな古今東西の本を読み漁ったんです。300冊くらい。
―― 300冊もですか?
孫 「なんで嫌々勉強を頑張らなくちゃならなかったんだ」って思っていた受験生時代の恨みも原動力に(笑)。それで、本にも書いた「なんで子どもが勉強するのか」や「どうしてクラスっていう概念ができたのか」ということが少しずつ見えてきた。ルーツをたどっていくと、その当時の事情があって教育システムが築かれ、それが今も残っているんだと。
例えば、近代の学校教育のルーツは17世紀にありますが、それは「世の中から争いをなくすには青少年を正しく教育するしかない」との考えから生まれました。そして囚人たちに常に監視されていると思わせる「パノプティコン」という監獄の考え方にならって、規律や訓練で生徒を秩序の中にはめ込んでいく学校教育ができあがってきた。
そういう縛られた教育が長年にわたって当然のようにされてきたわけですけど、必ずしもこれからの時代もそういうふうにやっていく必要はないのではないかと思うんです。見方によっては学校は自由な学びの機会を奪っています。だから、子どもが学校に行って、勉強するということが正しいんじゃないんだと。