この連載では、各分野で活躍している人たちに「人生を左右した決断」についてインタビュー。今回登場するのは、元TBSテレビアナウンサーで、現在はドイツを拠点にアーティストとして活躍する伊東楓さん。アナウンサー時代の葛藤などを語ってもらった上編に続き、下編ではTBSテレビを退職した理由や、自ら企画を持ち込んで絵詩集を出版した経緯、決断するときの軸などを聞きました。
(上) 元TBSアナ伊東楓 固定観念に苦しみ自分を見失った
(下)TBS退職→企画持ち込み絵詩集出版、直感でドイツ移住 ←今回はここ
自分がどこまで高く飛べるか挑戦してみたい
編集部(以下、――) 会社に退職を申し出たのはいつだったのでしょうか?
伊東楓さん(以下、伊東) 退職の意思を伝えたのは、2020年の春頃だったと思います。アナウンサーの仕事は好きだし、お世話になったTBSテレビに貢献したいと思っていましたが、かなえたい夢ができたと伝えました。自分で描いた絵と詩をまとめて本を出版したいと思ったのも、ほぼ同時期でしたね。
―― アナウンサーをしながら本を出版するという選択もあったと思います。なぜ、退職をしようと決めたのでしょうか?
伊東 アナウンサーは客観的に見ると、人との出会いや待遇にも恵まれた職業だと思います。ですが、人から見れば恵まれた環境にいても、私にとっては窮屈だったという事実があって。
例えば、「この建物の中だったら自由に飛んでいいよ」と言われた場合、その建物の中にいる限りは安全で居心地がいいけれど、自分がどれぐらいの高さまで飛べるのかは分かりませんよね。建物=組織と考えると、組織の中にいる限り、自分が最終的にどこまで行けるのか試すことは難しい。だから組織を離れて、一度しかない人生の中で、自分がどこまで高く飛べるのか挑戦してみようと思ったんです。
それに、本を出したいと思った最大の理由は、本当の自分を伝えたいと思ったからです。人が求めるアナウンサー像に合わせようとして苦しくなったり、そこから自由になって自分らしく生きようと決めたりした経験を踏まえて、自分が何に葛藤し、今、どんなふうに生きているのかを、絵と詩を通して知ってもらいたいと思いました。
本の中で「他人の目は気にしなくていい」「自分らしく自由に生きていきたい」と言っているにもかかわらず、私自身が窮屈さを感じながら組織の中にい続けるのは矛盾しますよね。だから、組織にいたまま出版する発想はありませんでした。
―― 組織を離れる迷いや不安よりも、自分の可能性を試してみたいと思う気持ちが強かったんですね。
伊東 そうですね。アナウンサーとして「やり切った」と感じたから気持ちよく飛び立てたのだと思います。関係者に退職の意思を伝えたあと、担当番組の調整などをして、約1年後の21年2月末に退職しました。
―― 絵詩集は退職後の21年3月に出版しましたが、どうやって実現させたのでしょうか? 出版社からのオファーですか?
伊東 いえ、自分で企画書を作って持ち込みました。