男性も育児を当たり前にしていく時代。でもそれにはさまざまな困難が待ち受けています。本連載では「お父さんの支援」をライフワークとする産婦人科医・産業医・医療ライターの平野翔大さんが、医療現場で日々感じている「お父さんの育児」の課題を整理し、解決のためのアドバイスを提案していきます。第6回は、妊娠中の女性と産後の両親に起こる睡眠と食事の変化、その大切さについてです。
【「男性育休時代」の今だから考えたいこと】
これまでのラインアップ
■産婦人科医として「男性の産後のうつ」に抱く懸念
■父親の育児トラブル体験談「これで私は後悔しました…」
■「妻に信頼されるパパ」になる準備は妊娠中から
■夫婦の信頼は妊娠中、夫が妻を支えることで生まれる
■抱っこなど、むしろパパのほうが得意な育児もある
夫は妊娠した妻の体の変化を学ぶ機会がない
「父親支援」に取り組む、Daddy Support協会代表理事・産婦人科医・産業医・医療ライターの平野翔大です。本連載では、誰もが楽しく育児に取り組める父親になれることを目指し、妊娠中から産後にかけて、男性が知っておきたいことをお伝えしています。
女性は自分が妊娠することで、体がどのように変化するかを実感しますが、父親になる男性は、女性の身体の変化について学ぶ機会がありません。今、女性の健康経営の推進や、月経関連の労働損失が大きい(※1)といったデータが話題になっていますが、男性の上司や管理職も女性の身体について知らないという問題があります。そのため、筆者も産業医/産婦人科医として企業などで講演することが多々あります。実際にこういったテーマをきちんと学ぶのはなかなか大変なことです。記事の最後では参考になる書籍も紹介したいと思います。
一番知っておきたいのは「食事」「睡眠」がどう変わるか
「食べて、寝ていれば生きていける」とはよく言ったもので、食事と睡眠の2つは人間が健康に生きる上で、最も重要なものです。赤ちゃんはまずこの2つの欲求を満たすことが大事ですが、これは大人でも一緒。しかし妊娠・育児はこれを阻む要因になるのです。だからこそ、夫婦はまずお互いの「食事」「睡眠」について、特に気を付ける必要性があります。特に妊娠中に苦しい思いをするのが母親なのです。
【妊娠初期】
妊娠初期でいえばまず「つわり」が問題になります。食べたくても食べられない、嗅覚や味の嗜好が変わるといった症状があります。妻のつわり時に夫が気を付けるべきなのは以下の3つです。
・食事の内容やタイミングについて妻の希望を聞く(妊娠すると食の好みが変わったり、少量に分ける『分食』のほうが食べやすい場合があったりするため)
・アルコール・喫煙は避ける(妊婦は飲めない・吸えない。特にタバコは臭いが気になる)
現時点でつわりを完全に収める方法はありませんが、つわりで食べられなくても、この時期の赤ちゃんはしっかり育ちます。ただし、水分が摂れない場合は受診が必要で、場合によっては入院になります。妻が水を飲むのも難しそうな場合は、無理に飲ませるのではなく、飲めそうかどうかを聞きながらぬるま湯などを勧め、それも無理であれば受診を提案、そして夫も一緒に行くとよいでしょう。
食べられないことを責めたり、厳密な管理に走ったりするのもNGです。カップ麺でもいいので、食べられるものを食べることがつわりの時期には大事だということを夫も知っておきましょう。
【妊娠中期~後期】
妊娠中期~後期では「おなかの重さ」「胎動」が問題の原因になります。
おなかが大きく、重くなると、あおむけで寝るのも困難になります。胎動が活発になると夜中に起こされることも増えます。食事量も増えますが、消化は悪くなり、便秘になったり、時に気持ちが悪くなったりすることもあります。さらにおなかが重くて動作の一つ一つが大変になるので、疲れやすさは段違い。これらは男性には分からない苦労です。夜の睡眠が妨げられ、動くのも大変なので、産休などで家にいても家事が手に着かないことが増えます。
初期ももちろんですが、このような時期に妊婦の大変さを理解し、サポートすることは夫の大きな役割です。どんな大変さがあるのか、何が必要かをまずは聞きましょう。悪気はなくても「休んでいるのに家事ができていない」「寝てばかり」と言うのは禁句です。妊婦は1キログラム以上にもなる子どもをおなかの中に抱えているだけで、相当体力を消耗しているのです。

【産後すぐ】
産後も問題が山積しています。出産が経腟分娩でも、帝王切開でもお母さんの身体は大きなダメージを受けています。男性がイメージしやすいのは物理的なダメージです。経腟分娩なら陰部が裂けることも多く、帝王切開ではおなかを切ります。子宮が収縮する後陣痛も痛いですし、出産のために緩んだ関節を元に戻す痛みを感じる方も多いです。
ダメージはこれだけではありません。妊娠を維持するために大量に分泌されていた女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)が出産により激減します。これらは気分にも関わっているホルモンで、分泌量が急減することによって、メンタル的な浮き沈みを感じる女性が多くいます。
これがいわゆる「マタニティーブルー」。産後すぐから2~3週間の間に気分の落ち込みが起こります。乱高下という形で出て、イライラしやすくなる方もおり、「ガルガル期」と呼ばれるエピソードの原因が、このホルモン急減なのです。