男性も育児を当たり前にしていく時代。でもそれにはさまざまな困難が待ち受けています。本連載では、「お父さんの支援」をライフワークとする、産婦人科医・産業医・医療ライターの平野翔大さんが、医療現場で日々感じている「お父さんの育児」の課題を整理し、解決のためのアドバイスを提案していきます。最終回となる第7回は、2022年に法改正された「男性の育児休業」について、取るべき時期やその目的、期間などについて整理していきます。

【「男性育休時代」の今だから考えたいこと】
これまでのラインアップ

産婦人科医として「男性の産後のうつ」に抱く懸念
父親の育児トラブル体験談「これで私は後悔しました…」
「妻に信頼されるパパ」になる準備は妊娠中から
夫婦の信頼は妊娠中、夫が妻を支えることで生まれる
抱っこなど、むしろパパのほうが得意な育児もある
妊娠・出産期 パパも睡眠不足に注意すべき理由は

男性の「育児休業」は仕事との両立の準備期間

 「父親支援」に取り組む、Daddy Support協会代表理事・産婦人科医・産業医・医療ライターの平野翔大です。男性は女性に比べて親になるための「教育」「経験」「支援」が不足している現状があります。そこで本連載では父親として楽しく育児に取り組むために、知っておきたい知識や持つべきマインドについてお伝えしてきました。

 よく男性の育児休業の目的を「妻の産後の大変さを支える」と表現することが多いですが、それは「男は仕事、女は家事・育児」の時代の話であり、今はこれだけでは不十分です。

 確かに産後のお母さんは身体的には出産に伴うダメージを抱え、精神的にはホルモンの急減で不安定になりやすい(マタニティーブルーズ)のは事実です。この時期をしっかり乗り越えるために、父親の支援・協力は重要でしょう。しかし育休はそれ以上に「赤ちゃん中心の生活」への移行期間であり、父親にとっても大事な「仕事との両立の準備期間」と意識することが重要です。そしてこの意識こそが「妻を手伝う」ではなく、「親として主体性を持つ」ということにつながるのではないでしょうか。

 共働き世帯数が70%(※1)近くまで上昇している現代、「父母の両方が育児をしながら仕事をする」家庭が多数派になっています。しかしこれは決して簡単にできることではなく、育児休業中に十分な予行演習を行うことが必要です。

 育児休業中の「準備期間」の目標としては、もちろん育児自体をできるようになるのが重要です。父母それぞれが自分1人である程度子どもの世話ができ、適切に役割分担できる体制になることが必要でしょう。

 しかし、同時に必要なのは「赤ちゃんのいる生活を理解する」ということ。最近は家事もこなせる男性が増えていますが、このような男性が陥りがちなのが、「子どもがいると家事が完璧にできなくなる」ことを受け入れられないことです。赤ちゃんのいる生活では、最優先は赤ちゃんの世話になり、家事が半端になることも多々あります。そのような生活になることを理解した上で、夫婦で家事・育児をどう分担するのか、育児をしながらどのように生活と仕事を維持していくのかを考えるのが重要ではないでしょうか。

 今の社会システムや企業文化では、ともすると「男は仕事」になりがちです。育休が明けた後に、また「仕事中心」の生活を要求されることは少なくありません。しかし仕事中心の生活になってしまっては、父親だけ「赤ちゃんがいない生活」に逆戻りということです。育児が始まった家族は仕事中心の体制には戻れません。だからこそ、育休中に「赤ちゃん中心の生活」を理解し、そのためにはどの程度育児にリソースを割かなくてはならないのか、その中でどの程度仕事ができるのかを考えておくことが重要です。