親がこの先、病気になったり介護が必要になったりしたときに備えて、元気なうちにいろいろ話しておくのは大事なことです。でも実際は、コミュニケーションをスムーズに取るのは難しいもの。「親のホンネ」を探りつつ、安心して過ごしてもらうために子ども世代はどう接すればよいのか。90歳を超えた母親と同居しながら、民生委員として多くの高齢者と接している介護・福祉ライターの浅井郁子さんと考えていきます。連載最終回のテーマは「地域とのつながり」です。

親の介護や支援の知識 「発揮しすぎ」は禁物?

編集部(以下、略) この連載を通して感じたのは、親の老いや介護、認知症への備えについて少し身構えすぎていた、知識を持っておかねばと考えすぎていたのかも、ということです。介護保険制度など高齢の親を取り巻く法律やサービスは整ってきていますが、「適切に対応すること」に気をとられて、親の気持ちに寄り添うことがおろそかになってしまったら、本末転倒だなと気づかされました。

浅井郁子さん(以下、浅井) 親とコミュニケーションを取らないことには、健康、介護、お金、暮らしのどれにも対処できないので、毎回強調していたかもしれませんね。

 「備えあれば憂いなし」と、制度に関する知識を得るのは子どもの準備として必要なことです。でも、いざ親に介護の兆しが見えたときにその知識を発揮しすぎると、親とテンポ感が合わないことがあるんです。

 例えば、「よし、こういうときはすぐに地域包括支援センター(以下、包括)に連絡だ!」と子どもが率先して連絡を取ろうとすると、親に恐怖心や不安感を与えてしまうことがあります。子どもも最初は分からないふりをして、親と一緒に「どうしようか?」と言いながら対応するくらいのほうがいいかもしれないのです。

―― でも、初動として「包括に相談しましょう」は間違いないですよね。

浅井 はい、間違いないです。介護の記事って、一般的に介護をする側である子ども世代に向けた内容が多いですよね。でも本来、包括に相談するのは親本人です。介護申請も親にその意思がないとできませんから、子どもが初動で先走ると、事の運びにつまずいてしまうことがあるのです。

―― 今はっとしました。私、包括って子どもが連絡を入れるべきところだと思ってしまっていたんです。でもおっしゃる通り、子どもがあまりシステマチックに進めてしまうと、親の気持ちを置いてきぼりにしてうまくいかないこともありそうです。

浅井 もちろん、子どもが包括への相談を提案して親がすぐに受け入れてくれる場合もありますからケース・バイ・ケースですが、私が高齢者に接していていつも感じるのは、テンポ感の違いです。見守り訪問の際に「何かあったときは包括へ」とお伝えして資料を渡しますが、既に包括に相談したほうがいいだろうと見受けられる状態の方も、なるべく遅らせたいという反応をする人が多い。その心理を見つめることは重要だと思うようになったのです。

―― なぜ包括への相談を遅らせたいのでしょう?

高齢の親にとって、暮らしの安心感につながる最も大きな要素とは何でしょうか?
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