日本で働き、オーストラリアで家族と過ごす「往復生活」をしている小島慶子さん。子育ても終盤にさしかかり、「これまでとは違う一歩」を踏み出しつつある小島さんが、新たな気づきや挑戦を語っていきます。今回のARIAな一歩は、「恋」。

「大奥」第7回。あれはきっと、すべての女の夢

 ドラマのラブシーンで、20年ぶりに泣いた。いや、多分最後に泣いたのは1996年の「ロンバケ(ロングバケーション)」だったかもしれないから、27年ぶりに泣いたんじゃないか。まさか、私の脳にまだ恋愛で泣ける回路が残っていたとは! 見たのは、 NHKの「大奥」第7回である。あきれて画面を閉じる前にまあ、聞いてくれ。あれはな、閉経した女の……いやきっと、すべての女の夢なのじゃ。

 (なお、私はネタバレという言葉も、それを責める風潮も好きではない。すでにこの回の見逃し配信は終わっているが、再放送はあるかもしれない。この先では内容に触れていることをあらかじめお伝えしておく。)

 もしもあなたが富と権力と美貌と若さを手にしており、えりすぐりの男たちと好きなだけ交わることができ、己の体から世継ぎを生み出すことが最大の使命であったら、あなたは幸せだろうか。これはそういうドラマである。舞台は江戸時代。謎の疫病で若い男が激減し、家督を継ぐのは女たち。主人公は徳川幕府の女将軍だ。子どもの死亡率が極めて高い時代に、たった一人の権力者の腹から出てくる子どもの数には限りがある。妊娠期間は10カ月、出産・産褥(さんじょく)、次の生理が来たらすぐに性交……時間と身体条件の制約の中で、一人でも多くの子孫を残さねばならない。

 まあ実際に、マリア・テレジアは女帝としてハプスブルク家を率いながら、ほぼ毎年出産して夫との間に16人もの子をなし、政略結婚に活用したので不可能ではないのだろうが、かなりの難業だ(絶え間なく妊娠している状態で政務を行ったのだから驚異的)。

 「大奥」の将軍が背負わされたのは、まさに孕(はら)み産み殖やすつとめ。最高権力者でありながら、身体の自己決定権はない。家父長主義のもとで女性の体が負わされてきた役割は、システム自体が変わらぬ限り、女が権力者となっても同じである。その悲しみは絢爛(けんらん)豪華な大奥の寝所の褥(しとね)にも染み込んでいる。

各地の友人を訪ね、北陸から山陰の小旅行へ。これは兵庫県豊岡市の竹野浜。2月とは思えない青さ! パソコンを開いたものの、海に見ほれてぼーっとしていました
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