日本で働き、オーストラリアで家族と過ごす「往復生活」をしている小島慶子さん。子育ても終盤にさしかかり、「これまでとは違う一歩」を踏み出しつつある小島さんが、新たな気づきや挑戦を語っていきます。今回のARIAな一歩は、「今を生きる」。
三内丸山遺跡を歩いていて、ハッと気づいた
最近、先のことは考えないことにした。生来小心者で、いつも未来を妄想しては不安になったり心配したりしがちなのだが、そっちに気を取られている間にうっかり死ぬかもしれないので、とにかく今に集中する。先のことを心配するのは、残り時間がたっぷりあると信じられる若者の特権だったのだ。
なんでそんなことに気づいたかというと、青森の三内丸山遺跡に行ったからだ。縄文時代に1700年間も栄えた大集落の跡で、ゴミ捨て場や墓地も残っている。集落の長が上意下達の統治を行うのではなく、プロジェクトごとにリーダーを決めては完遂するとまた一住民に戻るというナイスなやり方で社会を運営していたそうだ。で、おびただしい数の赤ん坊の墓がある。つまり子どもがたくさん死ぬ。大人も40歳ぐらいまで生きれば長老だったらしい。平均寿命が30歳。
そんなガイドさんのお話を聞きながら歩いている私は50歳だから、縄文時代ならもうとっくに骨になっているはずだ。しかも三内丸山の土壌は強い酸性で、埋葬された骨が溶けてしまうらしいので、文字通り土になっているはず。いやー私、今5000年前にタイムスリップしたらありえないレベルの古老できっと妖怪扱いだな! しかしおそらく10代で初潮を迎えてから妊娠と出産と子どもの弔いを繰り返して20代を過ごし、30そこそこで死ぬかもしれない人生を生きた人たちが1700年間も祭祀(さいし)と生活の場を営み続けたわけだから、みんなメンタル成熟していたんだろうなあ、だって私の20代なんて自分のことで頭がいっぱいでほぼ思春期無期限延長中だったものなあ……と考えていたら、ハッと気づいたのだ。
やばい、元から信じてないけど、やっぱり人生100年とか言ってる場合じゃない。もう私、三内丸山的には妖怪級まで生きてしまったんだから、いつ骨になってもおかしくないんだわ! 頭の中の100年人生の皮算用なんかしてないで、元を取らなきゃ、今を生きてしっかり生身の体の元を取らなくちゃ!!
これはきっと、「ほえー」とか「なんとおお」とか言いながらのんきにガイドさんと歩いている私の周りに集まってきた、縄文シスターたちのスピリッツが教えてくれたんじゃないかと思う。ありがとう三内丸山シスターズ。
そんなわけで、2022年12月末現在、私は今を生きている。しかも真夏の空の下で。