「教育移住」を選択した先輩たちに、実践したからこそ分かる「教育移住のリアル」を聞いていく本連載。今回は人気教育移住先であるマレーシアの現状について、11年前にマレーシアに移住した文筆家・編集者の野本響子さんによるリポートをお届けします。前編では、マレーシアへの教育移住をサポートする「ワクワク海外移住」運営者の佐藤ひとみさんへの取材を通し、マレーシアの現状を解説してもらいます。以前から比べるとビザ要件などのハードルが上がったにも関わらず、なぜ依然として人気があるのでしょうか。

【前編】マレーシアへの教育移住、円安でもなぜ人気? ←今回はココ
【後編】マレーシア教育移住 インド・華人の同級生から刺激

 東南アジアではパンデミックが一段落し、多くの規制が終了。子どもに海外で教育を受けさせたいと、マレーシアのインターナショナルスクールに教育移住する層が戻ってきています。円安やインフレーションと逆風が吹いている上に、マレーシア側のビザなどの規制はどんどん厳しくなっていますが、2022年に現地のエージェントが主催するイベントには2回合わせて延べ700組の親子が参加しました。なぜ、わざわざマレーシアを目指すのでしょうか。

「古い教育システムで、中学受験をさせたくない」

 保護者は、いったいなぜマレーシアを選択するのでしょうか。マレーシアへの教育移住をサポートする「ワクワク海外移住」の運営者である佐藤ひとみさんが5月と10月に主催した上記のオンライン・イベントの参加者は、ほとんどが日本に住んでいる保護者です。どんな目的で興味を持ったのでしょうか。

 「参加者にアンケートをとると、一つ、中学受験ではなく海外移住を選択するという人たちが来るパターンがあります」

 かつて受験戦争を経験した保護者の中には、子どもを学校に入れてみて初めて、日本の教育カリキュラムが、ほぼ20年前と変わってないことに衝撃を受ける人がいます。同じことを子どもにさせるのに対して疑問を持ち、海外に出ていくのです。なかでも比較的ビザが取りやすく、日本からの距離が近いマレーシアは選択肢の一つとなっています。

 佐藤さん自身も、受験戦争を経て、疑問を持った1人でした。

 「英語が得意科目で上智大学に行ったのに、周りは皆帰国子女で、私の英語は通じない。アメリカンジョークにクラスで1人だけ笑えない。きつい受験戦争がまったく生かされてない。これまで勉強してきた英語はなんだったんだろう? と思いました」

 東京ではテレビ局などで勤務し、働きづめの日々。子どもが生まれると朝、保育園に送って、電車に乗って出社。間に合うようにギリギリにお迎えに行く日々が始まりました。

 「土日も休日出勤があり、公園に行っても疲れていて、子どもをみてあげられない。でも働かないと食べていけない。こんな生活に疑問を抱き、2018年4月に家族でマレーシア・ジョホールバルに移り住みました。当時、長男は日本だと小学3年生、次男は1年生でした」

 欧米より近く、学費が安い、当時はそんな認識で、インターネット上の情報も少なく、ほぼほぼマレーシアへの事前知識はなかったのだそうです。

 「実際に来てみたら、すごくいい、と思いました。生後6カ月から保育園に預けていて、それまでは子どもと一緒にいる時間がほとんどなかったのですが、迎えに行った後たくさん一緒に過ごす時間ができました。生活環境も、ジョホールバルには海があって、目と鼻の先がシンガポール。人々が穏やかで、時間に追われていない。夕方になると、ローカルの方が家族でサイクリングしたりする姿を見て、人生観がすごく変わりました。午後4時や5時に公園に家族で遊びに行く人がいる。こういう形があるんだな。幸せってなんなんだろう、と。いいか悪いかは個人の判断ですが、こういう考え方もできるんだ、と」

 この良さを知ってもらいたい、と留学エージェント業を始めたといいます。