この連載では、常識にとらわれず自分なりの家族のカタチと幸せを追求している人を紹介します。今回登場するのは、元宝塚歌劇団月組トップスターで、現在は女優として活躍する瀬奈じゅんさん。瀬奈さんは、俳優・ダンサーの千田真司さんと結婚後、不妊治療を経て特別養子縁組で1人の男の子を家族に迎えました。下編では、特別養子縁組を決断するまでや真実告知などについて聞きました。
(上)瀬奈じゅん つらい治療も「頑張れば授かる」と信じてた
(下)瀬奈じゅん 望むのは特別養子縁組が「特別」でない社会 ←今回はココ
赤ちゃんのときに家族に迎えたら、別れの回数を減らせる
編集部(以下、略) 不妊治療と並行して特別養子縁組について調べていくうちに、どのような気づきがありましたか?
瀬奈じゅんさん(以下、瀬奈) さまざまな事情で生みの親と暮らすことができず、社会的な養護を必要とする子どもたちが、当時は日本に約4万5000人(※)もいたことに驚きました。
そしてこの子どもたちは、血のつながりはなくとも温かい家庭で育つことが望ましいとされているにもかかわらず、約2割しか家庭と同様の養育環境下で暮らせておらず、約8割が乳児院や児童養護施設などで暮らしている現実を知りました。
もちろん、生みの親と暮らせない子どもたちを、乳児院や児童養護施設で育てていくことは大切だと思います。しかし、調べていくうちに、子どもが人との絆を育むためには、愛着の形成が何よりも大切であることを知ったんです。
―― 愛着の形成とは、どういうものなのでしょうか?
瀬奈 子どもは、いつも同じ人の腕に抱かれ、見守られて、欲求を満たしてもらうことで安らぎを覚えていき、その人との絆を育んでいくそうです。特に、赤ちゃんや幼児のような小さい子どもほど、家庭の中で特定の保護者から愛情を受けて育つことが大事だといわれています。
しかし、乳児院で暮らす子どもたちは、最初に生みの母親との別れを経験し、さらに3歳前後で児童養護施設に移り、なついていた職員の方たちとの別れも経験します。このように、幼い頃から何度も身近な人との別れを経験することは、子どもにとってとてもつらいことのはず。だからまずは、「児童養護施設に入る子どもの数を減らすことが大事なのでは?」と考えるようになりました。
特別養子縁組は、養親だけが子どもの親権者となり、実子とほぼ同じ養育環境下で育てることができる制度です。この制度を利用して、赤ちゃんのうちに家族に迎えることができたら、つらい別れは生みの親との別れだけにしてあげられる。子どものいる温かい家庭を築きたいと思っている夫婦がいて、温かい家庭を必要としている赤ちゃんがいるのなら、特別養子縁組という制度を利用して家族になることは、とても幸せな家族のカタチだと思うようになりました。
―― 特別養子縁組についての理解を深めていった結果、社会にとっても自分たち夫婦にとっても大事な制度だと思ったのですね。一方、不妊治療をやめたきっかけは何だったのでしょうか?