電車やバスの中で子連れのお母さんに冷たく接する人をたまに目にすることがある。一方で、街中で「よその子」に気軽に話しかけると通報されるという話も耳にする。日本はいつから子育てを個人の問題にしてしまったのだろう。台湾で出産、子育て中のノンフィクションライターの近藤弥生子さんは、街中でも職場でも皆が自然に子どもに関わりサポートしてくれることに驚いたという。

飲食店でギャン泣きする子を店員さんが抱っこ

 台湾で生まれ育った長男は生まれたときから非常によく泣く子で、常に抱っこが必要だった。夜も抱っこひもに入れて30~40分ほど外を散歩しないと寝てくれなかったので、寒い冬も、雨の日でも、私は外を歩いて寝かしつけていた。

 そんな理由から、日本で赤ちゃん連れがうるさいと怒られたり、迷惑がられたりするというニュースを目にするたび、震え上がったものだ。

 台湾では赤ちゃんや子どもが泣いていても迷惑そうな顔をされることがない。皆が「どうしたの~?」と笑いかけてくれる。

 私は台湾で子連れで窮屈な思いをしたことが一度もない。この手のエピソードを書き出すときりがないけれど、いちばん初めにびっくりしたのは、長男を出産後、まだ彼が新生児だった頃に家の近所の朝食店で友人と食事を取ったときのこと。

 相変わらず長男はギャン泣きしていて、立ちながら縦抱っこしないと泣きやまない。朝食はおろか、せっかく会いにきてくれた友人との会話もままならない状態に苦笑いするしかなかった。すると、朝食店の店員のおばちゃんが「私が抱っこしているから、お母さんゆっくり食べて~!」と赤ちゃんを抱っこしてくれるという奇跡のような出来事が起こった。

店員さんが子どもをあやしていても、店の客や他のスタッフから「あのスタッフは仕事をしていない」と揶揄(やゆ)されたりしない
店員さんが子どもをあやしていても、店の客や他のスタッフから「あのスタッフは仕事をしていない」と揶揄(やゆ)されたりしない

 当時はこれを「奇跡」だと思った私だったが、台湾で子育てをするうち、これが決して珍しいことではないと知ったのだった。