LGBTQについての理解を深め、人として守られるべき権利を守るためにオープンに話し合う場が設けられるようになってきたのはよいことだ。しかし、本来プライベートな性自認や性的指向をなぜLGBTQの当事者だけがオープンにしなければならないのか。台湾在住のノンフィクションライターの近藤弥生子さんが、詮索せずに受け入れる台湾社会の姿を伝えてくれた。

好きな相手と好きなように伸び伸びと過ごす幸せ

 私が初めて台湾を訪れたのは今から10数年前、弾丸旅行の時だった。

 猫空(マオコン)という、お茶の産地に向かう電車の中で、向かい側に座っていた二人の女子高校生は、しっかり手をつなぎ、互いの目を見つめ合いながらおしゃべりに興じていた。

 彼女たちを見ながら、いいなぁと思ったことを、昨日のように思い出す。

 同性愛なのか、とても仲の良い友人なのか、関係性は分からない。けれど、そんなことはどうでもよくて、ただただ、好きな相手と好きなように伸び伸び一緒に過ごせるということが、とても良いと思ったのだ。

 台湾暮らしが12年目を迎えた今でも、台湾社会のそこかしこで同性カップルに遭遇する。それはもう、当たり前のことだ。

 新型コロナ禍中、私の前でバスを降りた若い男性が、バス停で待っていた男性とハグをしていたことがあった。「新型コロナ禍で会えなかったけど、やっと久しぶりにリアルで会えた」という感じだった。

 勝手に自分の家族と重ねては失礼なのかもしれないが、2人の息子たちが成長した後も、こうして好きな人と堂々とハグできるような世界であってほしいと思いながら、彼らの横を通り過ぎた。

当事者でないのに発信していいのか、萎縮してしまう

 2019年5月24日、台湾ではアジアで初めて同性婚の合法化が実現された。当日だけでおよそ500組のカップルが入籍したという。

 それから3年後の22年。台湾では7000組以上の同性婚が成立していたが、日本など同性婚が合法化されていない国・地域の相手との婚姻は認められていなかった。

 それに対して、日本人の有吉英三郎さんと台湾人の盧盈任さんら男性カップルが「同性婚を認めていない日本の法律は、台湾の公序良俗に反するので適用すべきでない」などと裁判を起こしていたところ、22年7月に台北地方裁判所が二人の婚姻届を受理するよう自治体に命令する判決を出し、大きなニュースになった。

 23年1月には、同性婚が合法化されていない国・地域の相手とも婚姻が認められることとなった(手続き上の理由で中国籍は対象外とされている)。

 このように、台湾で結婚の自由に代表されるようなマイノリティーの人権侵害が是正されてきていることは、日本社会にとって大きな参考になるだろう。

 けれど私自身、「自分は当事者でないのに発信していいのか」と萎縮してしまうことがあったのも事実だ。