男性社会の中で働く女性のさまざまな生きづらさを発信してきたARIA。ふと見ると、「男らしさ」を求められてきた男性たちもモヤモヤを抱えている様子。その正体は何なのでしょうか。この連載では、男性学の研究者、田中俊之さんに男性ゆえに生まれる生きづらさや葛藤の原因をひもといてもらいます。今回のテーマは「ミッドライフクライシス」です。

「会社にしがみつかずに生きる」という掛け声

 「職場にロールモデルがいない」と女性は長らく思い続けてきたと思いますが、今は男性もロールモデルがいない時代になってきました。このことは40代、50代でミッドライフクライシスに直面したときにも感じることだと思います。

 リーマン・ショック以降、経済的な変化があるたびに「これからは会社にしがみついても生きられない時代だ」と掛け声のように言われ続けてきました。それは分かっています。じゃあ、会社にしがみつかない生き方とは何か。正解は自分で探してくださいと投げ出されたまま。これまで仕事で自分の男らしさを証明してきた男性には、新たなロールモデルがみつからないという課題があります。それはすごくリアリティーがある問題です。

 写真画像を提供するゲッティイメージズジャパンが2022年の国際男性デーに発表した調査によると、日本の男性の60%は「メディアや広告に自分が共感できる人が表現されていない」と感じているそうです。これは世界平均を大きく上回っています。

 同社から過去1年間にダウンロードされた日本人男性のビジュアルを見ると、最も人気のあるテーマは「ビジネス」。男性は「仕事に励むサラリーマン」というステレオタイプで描かれていることを反映しています。メディアや広告の世界では「男性はスーツを着て働く」といったイメージで描かれてきました。テレビには70代になっても元気なタレントや政治家がよく登場します。メディアに出てくる高齢の男性はいつまでもバリバリの現役という人ばかりです。

メディアに登場するのは何歳になってもバリバリ働く男性のイメージ
メディアに登場するのは何歳になってもバリバリ働く男性のイメージ

 若者たちはメディアが流す男性像、女性像にそれほど影響を受けないかもしれませんが、40代、50代はメディアが描く人物像を自分に照らして考えやすい。そういうところでもミドルシニア以降の男性は生きにくさを感じるのだと思います。