男性社会の中で働く女性のさまざまな生きづらさを発信してきたARIA。ふと見ると、「男らしさ」を求められてきた男性たちもモヤモヤを抱えている様子。その正体は何なのでしょうか。この連載では、男性学の研究者、田中俊之さんに男性ゆえに生まれる生きづらさや葛藤の原因をひもといてもらいます。今回のテーマは「入試の女子枠」です。

理工系の男女比を改善するために「女子枠」を導入

 東京工業大学が2024年度の学士課程入試から総合型選抜、学校推薦型選抜に、女性を対象とした「女子枠」を導入することが話題になっています。

 同大のホームページによると、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みの一環で、24年4月入学者の入試では4学院で58人、25年は残りの2学院で85人を加えて合計143人の女子枠を導入する予定。現状、同大の学士課程の女子学生比率は約13%(22年5月1日時点)とかなり低く、ほかの施策と合わせて「自律的に偏りが改善していくこと」を目指すと説明しています。

 そもそも理工系に女子学生が少ないのはなぜか。受験校を選ぶ前の段階で、「女性は理数系に弱い」といった刷り込みや、「就職のモデルケースが少ない」「理系では医学部を目指す女性が多い」といったことが背景として考えられます。

東工大の女子学生比率はわずか13%。理工系学部では女性の研究者が少ない
東工大の女子学生比率はわずか13%。理工系学部では女性の研究者が少ない

男女差別への気付きはいつ生まれるか

 この女子枠をどう考えるか。僕が授業を持つ女子大の1年生クラスで話し合ってみたところ、意外にも「女子枠をつくるのは反対だ」という意見のほうが多く出ました。理由は「平等ではないから」。少なくとも大学1年生の段階では「競争というものは性別を問わず平等に行われているはず」というイメージがあるのだと思います。

 とはいえ、東京医科大を含む10大学の医学部で女性受験生や浪人生を不利に扱う不正入試問題が発覚したのは18年。それほど昔の話ではありません。今も、就職試験などの競争が100%フェアに行われているかというと、そうではない企業や組織もまだまだあると思います。

 同じ問いを、ジェンダーを学びたいと考える社会学のゼミ生(3年生)に聞いてみると、ほぼ全員が賛成でした。女子があまりにも少ない現状があるなら、女子枠などを使って多様性を実現する取り組みをしたほうがいいという意見です。

 男女問わずですが、日本では男女差別があることにあまり気付かず生活している人のほうがまだ多いということを改めて認識しました。東工大の女子枠がつくられると聞いて、「男性に対して不公平だ」といった意見が出てくるということは、日本にはそれほど女性差別がないという認識で社会が回っているということでもあります。だとしたら、今の社会に「どんな不平等があるのか」――そこがもっと多くの人に認識されるということは大事なことだと感じました。