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カルチャーとジェンダー

よしながふみ 「女が差別される」社会で生きる道探した

(1)家の中でお父さんだけが威張らないようにするには、自分が稼ぐしかないと思った

Terraceで話題!

1月からNHKでドラマが始まった『大奥』のほか、『きのう何食べた?』などを手がける漫画家よしながふみさん。人生観や仕事観、過去作品への思いなどが、三百数十ページにわたってつづられた『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』(フィルムアート社)も話題に。よしながさんは2010年に『大奥』で、ジェンダーへの理解に貢献したSF・ファンタジー作品に贈られる「ジェイムズ・ティプトリー・Jr賞」を受賞しました。多様な性や人生のあり方を描いた作品を多数世に送り出しているよしながさんに、創作の原点やジェンダーへの違和感、作品に込めた思いを聞いていきます。全3回でお届けします。

(1)よしながふみ 「女が差別される」社会で生きる道探した ← 今回はココ
(2)よしながふみ 多様性や社会の問題は、物語ににじみ出る
(3)『大奥』作者 誰もがマイノリティーでマジョリティー

「稼げる生き方」を目指した小学生 対等だった親のけんか

編集部(以下、略) 小学生の頃は、漫画家ではなく弁護士を目指していたそうですね。

よしながふみさん(以下、よしなが) 私が小学生だった1970、80年代は、今よりもお父さんが怖かった時代です。父親がなぜ怖くて偉い存在なのかというと、お金を稼いでいるから。父親の稼ぎがなければ生活が立ち行かなくなるわけで、お父さんが帰ってくると家族みんなが私語をやめて静かになる、というご家庭もまだありました。

―― よしながさんの家庭の中でも、そうしたパワーバランスについて考える機会があったのでしょうか?

よしなが 仕事をし続ける人生を選んだ母ですが、最初から父が家事に協力的だったわけでも、得意だったわけでもありません。洗濯物をどちらが畳むかで、2時間くらい夫婦げんかをしていたこともありました。自分で畳んだほうが早いのに、母は辛抱強く「家事は女の仕事」という役割の押し付けに反発していたんです。

 まあだいたい翌日には仲直りをしているんですけどね。血の気の多い若い夫婦でしたから。母は、「お父さんのことを愛しているからけんかするんだ」と言っていたのを覚えています。「愛」だってよ……って私は思っていましたが。

―― 夫婦が対等な関係だったのですね。

よしなが 夫婦が2人とも稼いでいれば、いざとなったら「別れる」という選択肢も選べますし、対等にけんかができますよね。親の言い争いを見るのは嫌でしたが、お互いに意見をぶつけ合う両親が嫌いだったわけではありません。

 私は母方の親戚たちが近所に住んでいる環境で育ったのですが、祖母は当時まだ珍しい「共働き家庭で鍵っ子」の私をかわいがってくれました。でも、祖母からよく「子どもがまだ小さいのにかわいそうだ」「昼間に母親がいなくてひどい母親だ」と言われるのがとても不愉快で。「別にかわいそうではない」と思っていたし、祖母にもそう返していました。

「お母さんも稼ぐと、お父さんとお母さんの両方が怖くなるかもしれませんが、少なくともお父さんだけが家の中で威張っている状態ではなくなります」とよしながさん。幼少期や人生の転機、仕事について深く語る『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』(フィルムアート社)
「お母さんも稼ぐと、お父さんとお母さんの両方が怖くなるかもしれませんが、少なくともお父さんだけが家の中で威張っている状態ではなくなります」とよしながさん。幼少期や人生の転機、仕事について深く語る『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』(フィルムアート社)

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