1月からNHKでドラマが始まった『大奥』のほか、『きのう何食べた?』などを手がける漫画家よしながふみさん。人生観や仕事観、過去作品への思いなどが、三百数十ページにわたってつづられた『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』(フィルムアート社)も話題に。多様な性や人生のあり方を描いた作品を多数世に送り出すよしながさんに、最終回では、漫画『大奥』の裏話と、女性将軍を描く中で得た気づきについて聞きました。
(1)よしながふみ 「女が差別される」社会で生きる道探した
(2)多様性や社会の問題は物語からにじみ出る よしながふみ
(3)『大奥』作者 誰もがマイノリティーでマジョリティー ← 今回はココ
子づくりの義務を果たす大奥は、誰が将軍になっても悲しい場所
編集部(以下、略) よしながさんが学生のときに着想を得た『大奥』は、2004年から連載が始まり16年半にも及ぶ長編大ヒット作となりました。『大奥』では男女の社会的な役割が逆転し、江戸時代の史実をベースに登場人物たちの野心や情愛が丁寧に描かれています。連載化のきっかけを教えてください。
よしながふみさん(以下、よしなが) 女性が権力を持ち、普通に働く社会を描いた作品という着想はあっても、「私がファンタジーを描くのは無理」と思っていたときに、2003年度にヒットした菅野美穂さん主演のドラマ『大奥』を見ました。1983年度版のドラマ『大奥』も好きだったので、江戸時代を舞台に男女の役割が入れ替わるという話を展開するならラブストーリーを描けるかもしれないと思って。それで生まれたのが、三代将軍・徳川家光と初代大奥総取締役を務めた万里小路有功(ありこと)の話です。
―― 『大奥』はジェンダーへの理解に貢献した作品に贈られる「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞」を受賞するなど、ジェンダーの観点からも国内外で大きな反響があります。どう感じていますか?
よしなが 皆さんがさまざまな捉え方をしてくださったり、評価していただいたりするのはありがたいことですが、『大奥』はジェンダーについて世の中に何かを訴えたくて描いた作品ではないんです。
よしなが 世襲の将軍職は、代々跡を受け継ぐ子どもをつくる義務を負っています。男性だから、女性だからということよりも、どの将軍にとっても大奥は悲しい場所ということを描きたかった。
『大奥』では、男性だけがかかる「赤面疱瘡(ほうそう)」という深刻な病気が流行し、男女の役割が入れ替わるきっかけとなりますが、天然痘のワクチンである「種痘」のようなシステムで病気が治り、幕末になって元の世の中に戻ればいいかな、と物語の大枠を思いつきました。それで、白泉社の編集担当さんに、「こういう作品を他の先生に描いてもらいたいです」と提案したら、「自分で描いてください」と言われ、結局私が描くことになったんです。