上場企業の企業統治におけるガイドラインを示したコーポレートガバナンス・コード(以下、CGC)。2021年6月に金融庁と東京証券取引所(東証)によって改訂され、企業が取り組むべき重点項目として、「中核人材の多様性確保」などが新たに加わりました。なぜ、企業統治において「多様性確保」が重要なのでしょうか。企業統治に詳しい東京都立大学教授の松田千恵子さんに聞きました。

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多様性確保は「経営判断の確度を高めるため」

日経xwoman編集部(以下、略) 2021年6月に金融庁・東証がCGCを改訂し、従来あった「取締役会の多様性確保」に加えて、「中核人材の多様性確保」が加わりました。なぜ、企業統治において「多様性」が大切なのでしょうか。

東京都立大学教授 松田千恵子さん(以下、松田) 企業の意思決定の確度を上げるためです。なかでも取締役は経営判断に関わる重要な立場です。1つの議題に対して、法律、会計、経営、グローバル……など、多様な専門家の視点を入れ、議論を交わしたほうが、判断ミスのリスクを下げられます。取締役に女性を登用したほうがいいといわれるのは、「女性の権利や平等」のためだけではなく、企業にメリットがあるからなのです

「取締役会における多様性確保は、企業の意思決定の確度を上げるため」(松田さん)
「取締役会における多様性確保は、企業の意思決定の確度を上げるため」(松田さん)

松田 現状の日本では、男性と女性とでは歩んできたキャリアやライフコースが異なることが多く、まずはそこを交ぜることが、多様性確保の第一歩と考えられます。加えて、出身国、年代などが異なれば、多様性の「度合い」が高まり、よりイノベーティブな議論が期待できます。

―― 2021年6月のCGC改訂で「中核人材の多様性確保」が加わりました。中核人材とは、具体的に誰を指すのでしょう。

松田 取締役の下に位置づけられる執行役員や、本部長、部長クラスを主に指しています。意思決定を行うのは、取締役会だけではありません。業務を執行する執行役員や、部長クラスも、日々、意思決定を行っています。そこでも、性別、国籍、中途人材など、多様な視点を入れたほうが、判断ミスのリスクを下げられることは言うまでもありません。

 私は、今後「執行役員の女性比率」が、企業の女性活用に対する本気度を測る上で、重要な指標になると思います。

―― なぜでしょうか?