社外取締役を「お客さん」にしない
松田 企業を船に例えると、船の持ち主はお金を出した株主であり、船を運航する船長は経営者です。株主にとって船長選びはとても重要。資質をきちんと見極め、透明性と公正性を持って選ぶ必要があります。そこで、株主の代わりにこの船に乗り込み、選任・解任にコミットするのが取締役です。特に、社内のしがらみがない社外取締役の役割が重要になってきます。
―― 2021年6月の株主総会以来、女性の社外取締役が続々と誕生しています。企業側は社外取締役に何を期待するのか、はっきりと示す必要がありますね。
松田 経営者のインタビュー記事で時々「社外取締役の方にご指導を仰いで」「アドバイスをいただいて」などという記述を見ることがありますが、社外取締役をお客さんだと思っていては困ります。社外取締役は、外部からの視点を入れるという役割ももちろん持っていますが、本来は、経営の監督や、トップの選解任という重要な役割を担っているのです。実際に、社外取締役が過半数を占める指名委員会によって、企業のトップが解任されるケースも起きていることを、経営者は覚えておくべきでしょう。
従業員は企業の「ステークホルダー」
―― コーポレートガバナンスと聞くと「経営層向けの話で、自分には関係ない」と感じる人もいると思いますが、人材育成という点で、企業で働く人にも深く関わっていますね。
松田 はい。コーポレートガバナンスの考え方の下では、企業と従業員の関係性も、変わってきます。
先ほども説明した通り、企業という船の持ち主は株主で、船のかじ取りをするのは経営者です。株主は、自分たちの代表である取締役を会社に送り込み、経営者が健全な企業運営をしているかチェックします。これがコーポレートガバナンスの本旨です。
しかし企業に関係するのは株主だけではありません。顧客や取引先、地域社会などに加えて、従業員も、企業にとって大切なステークホルダー(利害関係者)の一つです。日本社会では長らく、終身雇用・年功序列の下に、企業と従業員が一心同体になって成長を目指すスタイルが主流でした。従業員が勤務先のことを「ウチの会社」と呼ぶのは、身内意識の表れですね。しかし、コーポレートガバナンスの考え方においては、従業員は、雇用契約を結んだ「外の人」とされています。

従業員は船の乗組員であり、船の仕事をしますが、同時に、船長がきちんと船を動かしているか、チェックもします。もし、船の行く先や、与えられた仕事に満足できなければ、転職という形で船を離れることもできます。
―― 魅力のない会社からは、従業員が離れていく。だからこそ、企業も健全な経営と成長を目指すというわけですね。
松田 欧米では、従業員は専門分野のプロフェッショナルとして雇われ、「ここは自分にとって能力を発揮できる場所か?」という視点で、客観的に企業を見ています。よりよい機会を求めて転職することも当たり前。企業も従業員の動向に敏感で、頻繁に従業員満足度調査を行っています。企業は従業員にとって魅力的な場所を提供し、船を見捨てられないよう、選ばれ続ける存在にならなくてはなりません。