全部に○が付くのは、何の専門家でもない

―― 同時に、働く人も、専門性を高め、プロとして自分の価値を上げていく意識が必要ですね。

松田 日本ではもともと、従業員が自分のスキルを武器に他社に転職することはあまり想定されておらず、そのようなプロフェッショナル人材の育成もされてきませんでした。これは女性だけでなく男性も同じです。

 しかし、日本でもジョブ型雇用を導入する企業が増えるなど、急速に「専門性」が求められるようになってきました。新卒で入社した会社で心地よく働きながらミドルエイジになり、あるときハッと「自分には何も専門分野がない!」と気づいて焦っている人が多いのではないでしょうか

―― 専門分野の可視化という点では、CGCにおいても、取締役が持つ専門性を表などに示す「スキルマトリックス」の重要性が示されています。時々、「社長はすべてのスキルに○がついている」というマトリックスを見ることがありますが……。

松田 それは結局、何の専門家でもないということです。日本企業では、転勤も含めてさまざまな経験を積んできたゼネラリストが、経営を担う人材とされてきました。しかしゼネラリストとは、少々意地悪な言い方をすれば、「すべてが中途半端な人材」であり、強みがはっきりしません。「俺は会計を知っている」という経営者が、公認会計士や税理士の資格などを持っていないことも。資格がすべてではありませんが、専門家から見れば知識不足であるケースも少なくありません。

 「全部の項目に小さな○が付く」ような人材ではなく、どこか1つか2つに大きな○が付く人材。そうしたプロが集まって対等に議論する中から、イノベーションは生まれます。企業を選び、企業から選ばれる人材になるため、今後は男女ともにそうしたプロ人材を目指していく必要があるでしょう。

取材・文/久保田智美(日経xwoman編集部)

松田千恵子
東京都立大学教授
東京外国語大学外国語学部卒業、フランス国立ポンゼ・ショセ、国際経営大学院経営学修士、筑波大学大学院企業科学専攻博士課程修了。博士(経営学)。日本長期信用銀行、ムーディーズジャパン格付けアナリストなどを経て、コーポレイトディレクションおよびブーズ・アンド・カンパニーのパートナーを務める。上場企業の社外取締役も務める。著書に『サステナブル経営とコーポレートガバナンスの進化』(日経BP)、『グループ経営入門 第4版』(税務経理協会)など。