感性を磨くことで「自分らしさ」が生まれる

――シリコンバレーを舞台に活躍されていますが、日本の伝統文化の趣味もたしなまれているそうですね。

皆川 30代に入った頃から能楽、茶道を習い始めました。「日本の伝統」に目を向けた最初のきっかけは、2001年9月11日、イスラム過激派によって引き起こされたアメリカ同時多発テロ事件です。背景にあった「民族意識」が世間で話題に上がる中、「日本人が持つアイデンティティーって何だろう」という疑問が浮かびました。

 そんなとき、たまたま能の舞台を見る機会があったんです。木曽義仲の愛妾(あいしょう)であり源平合戦で戦った巴御前の物語。その表現を見て、鳥肌が立つような感動を覚えて……その主役を演じた能役者さんに「能を習いたい」と相談し、教室に通い始めました。

 能の謡と小鼓、茶道の世界は、それまで知っていた世界とは全く異なっていました。私はもともとロジカルに物事を考えるクセが付いているので、譜面を覚えることは難なくできたんです。譜面の構成や法則をつかんで、効率的に覚える方法をすぐに見つけられましたから。でも、譜面通りに謡ったり鼓を打てたりするようにはなるけど、演奏に面白みがない。良い演奏者は、他の楽器の呼吸を感じながら奏でられるんですね。茶道もそうでした。お点前はすぐに覚えたけれど、正しくできても「美しい」とは言えない。

 こうした体験を通じて、頭でロジカルに考えるだけではない世界があるんだ、と知ったんです。個々の「感性」によって深まるものなんだ、と。それに気づいて以来、自分の感性を研ぎ澄ませるためにも、こうした文化に触れる機会を設けています。

 それは読書でも同じです。新しい知識を得たくて、20代の頃はビジネス書をよく読みました。けれど、ハウツーを学んで、その通りに行動して課題を解決しても、そこに「自分らしさ」はありませんよね。ロジカルだけでは誰もが同じ答えに行き着く。知識を超えた「感性」や「知恵」といったものが、自分らしさ、自分のアイデンティティーを生み出すんだろうな……と思います。ですから、今では本の選び方が変わりました。好んで読むのは「常識を疑わせてくれる」本。「あなたが知っていることは常識じゃないんだよ」って、ガツンと言ってくれるような本に出会えると、すごく楽しいですね。

「能の謡と小鼓、茶道の世界は、それまで知っていた世界とは全く異なっていました」(皆川さん)
「能の謡と小鼓、茶道の世界は、それまで知っていた世界とは全く異なっていました」(皆川さん)