人的資本のポイントは、部下に「考える機会」を多く持たせること
原 今後、企業が勝ち抜いていくためには、いかに組織に貢献できる人材を育成して留保できるかが大きなポイントになると思います。人材が多様化し、流動性も高まるなかで、みんなに同じ研修やジョブローテーションをして、芽が出る人を引き上げるという従来のやり方はもはや難しい。もっときめ細かに個人の特性に合わせた対応が重要です。
例えば、最近日本でも人材育成の手法として導入されている1on1ミーティングもそのひとつ。職場の問題点など、大勢がいる場で意見しづらいことも聞けるなど、部下が組織に対してどんな視点を持っているかを知る機会になります。キャリア形成について具体的なアドバイスもでき、人を育てるという意味では、非常に有益な方法だと思います。
羽生 1on1で何を話せばいいか分からないと戸惑う上司も少なくありません。秘訣はありますか?
原 こちらの意見を押し付けるのではなく、傾聴するスタンスが大切です。なるべく具体的な相談事からスタートし、「この先こうなったらどうするか」と、ひとつ先のステップを見せる。その際、こちらが指示するのではなく、「あなたが上司だったらどう思う?」と問いかけながら話を膨らませ、その人自身に「考える機会」をより多く持ってもらうことを、私自身は心がけています。
羽生 以前、「人育て」と「組織の多様なメンバーを包括していくこと」には関わりがあるとおっしゃっていましたね。
原 昨今、ダイバーシティという言葉が先行し、いろんなバックグラウンドを持つ人たちをそろえてポストにつかせることが目標になっている傾向があるように思います。
ダイバーシティやインクルージョンが企業にとって必要な理由は、いろいろな視点からの意見が反映されることで、世の中の変化や顧客のニーズに対応でき、それが企業価値の向上につながるからです。とはいえ、多様な意見が本当に反映されて機能しているかというと、まだまだ難しいのが現状ではないでしょうか。個々人が自由に意見を言えて、それが反映されるような環境をつくることが何より大事です。
羽生 そうした環境をつくるには、どうすればいいのでしょうか。
原 従業員同士のコミッティやワーキンググループをつくり、さまざまな階層の人たちが自由に意見を言える場をつくることも有益です。インクルージョンの成果を生むには、個々人が自分固有のバックグラウンドやスキルセットを生かし、どのように貢献できるかを認識すること。それには、会社側が丁寧に、「あなたにはこのような期待をしていますよ」と伝えていく必要があり、目標を設定する作業が重要になってきます。