産休育休から復職して、悩み苦しんだ

―― 管理職や経営層を目指そうと思っていましたか。

香林 まったく思っていませんでした。

 もともと大学で技術を専攻したわけでもないですし、コンピュータに興味があったわけでもありません。どちらかというと開発プロジェクトの中でいろんなメンバーの知見が融合すると大きなものをつくれる、という“ものづくりのプロセス”が好きでした。

 職人肌のアーキテクト(システムの設計を行う技術者)として会社に貢献しようと考えると、どこかで頭打ちになるだろうなと入社10年目ぐらいで感じていました。ですから、開発プロジェクトでエンジニアとして振る舞いたいけれども、アーキテクトではなく、PM(プロジェクトマネジャー)やサブPMとしてチームをまとめていくほうがいいなと感じていました。ただ、同期が管理職になり会社に貢献しているのに、自分だけのんびりしていたら申し訳ないという思いはありました。それはライバル心とかではなくて。

―― 働く上で不便さ、やりづらさを感じたことはありますか。

香林 育児との両立ではいろいろ悩みましたが、ジェンダーの部分でやりづらさを感じたことはありません。部下になった年上の男性から「女性の上長って初めてなんだよね」と言われ、「やりづらいですか?」と聞いたことはあります。本人にとっては、いつもと違うイレギュラーな感覚が生まれたのだろうなと感じたので、なじむまで丁寧なコミュニケーションをしました。

―― これまでのキャリアで転機になったことはありますか。

香林 育児との両立について触れましたが、子どもが一人いて産休育休を経験し、その復職直後は、私にとって転機だったと思います。2011年のことです。

 それまでは時間の制約を意識せずに開発プロジェクトに携わり、残業もしていました。自分の生活スタイルを仕事に合わせていたんですね。ところが、復職すると保育園のお迎えをはじめ子育てをしながら、限られた時間の中で仕事のパフォーマンスを上げなければいけない。そういう働き方をして来なかったので、かなり悩み苦しみました。

 最初のうちは10時間かかる仕事を、7時間にどう圧縮するかを考えたりしましたが、無理に決まっています。夜中に仕事をしたり、朝早く行って仕事したりしたんですが、そんなのは続きません。

 2、3年悩みましたが、ある時、ふっと腹落ちした。時間が限られている事実は変えられない。パフォーマンスの出し方を変えたらどうかと。例えば誰もやっていない新しい領域をつくり出すことをやるとか、組織の中で切り込み隊長的なことをやってみるとか。量ではなく質でパフォーマンスを出せばいいんじゃないかと。

「子育てをしながら、限られた時間の中で仕事のパフォーマンスを上げなければいけない。そういう働き方をして来なかったので、かなり悩み苦しみましたが、ある時、ふっと腹落ちしました」
「子育てをしながら、限られた時間の中で仕事のパフォーマンスを上げなければいけない。そういう働き方をして来なかったので、かなり悩み苦しみましたが、ある時、ふっと腹落ちしました」