2022年2月16~18日に「日経SDGsフェス大阪関西」が開催され、初日に「建設、科学分野でジェンダー革命を起こす! 『誰もやらない社会課題』に手をつけるキーパーソンたち」というタイトルでクロージング討論が行われました。討論にはKMユナイテッド社長・竹延幸雄さん、科学技術振興機構(JST)副理事・渡辺美代子さんのお二人に参加いただき、建設、科学分野でのD&I(ダイバーシティ&インクルージョン、多様性と包摂性)に関する課題、それを突破していく方法、社会構造変革への提言などについて話し合っていただきました。司会進行は日経xwoman編集委員の羽生祥子が務めました。

左から、日経xwoman編集委員・羽生祥子、KMユナイテッド社長・竹延幸雄さん、科学技術振興機構(JST)副理事・渡辺美代子さん
左から、日経xwoman編集委員・羽生祥子、KMユナイテッド社長・竹延幸雄さん、科学技術振興機構(JST)副理事・渡辺美代子さん

SDGsの観点から考えると、ジェンダー平等が一番大きな課題

日経xwoman編集員 羽生祥子(以下――) 今日のテーマは建設、科学分野のジェンダー平等についてです。パネリストのお二人は、「誰もやらない社会課題」に自ら手をつけて目をそらさずに切り開いているキーパーソンです。さっそく質問1「建設業界、科学分野で経験してきたD&Iの問題点は何か?」です。竹延さんどうでしょうか。

竹延幸雄さん(以下、竹延) 建設業界は圧倒的な男性社会で、一時的に女性が入ってくることはあるんですが、なかなかダイバーシティが持続しない。これが1つ目です。2つ目としては、今まで女性の採用や育成をあまりしてこなかったので技能の伝承ができていないこと。3つ目は、新しい課題がたくさんあるのに業界全体でシェアしていくという発想がなかなか生まれないことです。

―― 渡辺さん、科学分野の課題はどうでしょうか。

渡辺美代子さん(以下、渡辺) 最初に日本全体についてお話しさせていただきたいと思います。2016年から毎年、各国がどれくらいSDGs(持続可能な開発目標)17の目標を達成できているかを評価したものに「SDG Index」があります。

 日本のSDGs達成状況はどうかというと、「達成済み(最高)」とされる目標は「4 質の高い教育をみんなに」です。最新版ではOECD(経済協力開発機構)37カ国が評価されていますが、その中で「4 質の高い教育」について2016年からずっと「達成済み(最高)」は日本とカナダだけです。日本の教育はいろいろ問題があるといわれていますが、SDGsの観点からは素晴らしいと評価されているんですね。

 一方、日本で「大幅な改善が必要(最低)」とされるのは3つあります。「5 ジェンダー平等を実現しよう」「13 気候変動に具体的な対策を」「17 パートナーシップで目標を達成しよう」です。13と17は日本だけでなくほとんどの国ができていません。ところが「5 ジェンダー平等」について、2016年からずっと「大幅な改善が必要(最低)」とされているのは日本と韓国だけです。ということで、SDGsの観点から考えるなら、ジェンダー平等が一番大きな課題と言えます。

 次に、科学分野で女性研究者はどれだけいるかについて、総務省が毎年公表しています。女性研究者比率の推移を見ると、その割合は毎年増えているのですが、2021年で女性研究者比率は17.5%であり、19年前の2002年に比べると6.8ポイント増えただけです。政府は2020年に指導的な立場の女性を30%にしましょうと言いましたが、このままのスピードでそれを実現するには今から35年かかることになります。つまり、日本の取り組みは「遅い」ということが言えます。

データ:総務省 科学技術研究調査結果から
データ:総務省 科学技術研究調査結果から

 「国立大学の分野別 女性教員数と比率」を示したのがこちらです。オレンジ色の線が女性教員比率を示していて、これを見ると明らかに理学と工学が少ない。先ほど女性研究者の比率は17.5%と言いましたが、女性教員は理学で9.5%、工学では7%しかいません。

データ:国立大学協会 国立大学における男女共同参画推進の実施に関する第17回追跡調査報告書(2020年12月3日)から
データ:国立大学協会 国立大学における男女共同参画推進の実施に関する第17回追跡調査報告書(2020年12月3日)から

 なぜ理工系に女性が少ないか。産業界に聞きますと「大学に女性がいないんだから採りたくても採れない」とおっしゃる。大学に聞くと、「理学・工学に学生が来ないから教員だけ増やすことはできない」と言う。中学・高校の先生に聞くと、「社会を見たら工学部に行った女性が活躍している姿が見えない。だから女子生徒に工学部へ行くことを勧められません」と言います。要するに、「負のスパイラル」が完全に出てきてしまっているんですね。それを断ち切るためには産業界、大学、中学・高校、みんなで努力しないといけない。

渡辺美代子(わたなべ・みよこ)さん<br>科学技術振興機構(JST) 副理事。東京理科大学理学部物理学科卒業、東芝総合研究所研究員として半導体の研究開発を担当。30歳で論文博士を取り、カナダのダルハウジー大学でポストドクターを1年半経験。東芝に戻ってから長男、長女を出産。39歳でつくばの研究所に出向、その間に英バーミンガム大学で研究員を務めたが、いずれも家族4人で居を移している。45歳の時に東芝研究開発センター材料応用技術センター長に就任し、東芝イノベーション推進本部経営変革統括責任者などを経て2014年より現職。18年より内閣府STEM Girls Ambassadorなどを兼任
渡辺美代子(わたなべ・みよこ)さん
科学技術振興機構(JST) 副理事。東京理科大学理学部物理学科卒業、東芝総合研究所研究員として半導体の研究開発を担当。30歳で論文博士を取り、カナダのダルハウジー大学でポストドクターを1年半経験。東芝に戻ってから長男、長女を出産。39歳でつくばの研究所に出向、その間に英バーミンガム大学で研究員を務めたが、いずれも家族4人で居を移している。45歳の時に東芝研究開発センター材料応用技術センター長に就任し、東芝イノベーション推進本部経営変革統括責任者などを経て2014年より現職。18年より内閣府STEM Girls Ambassadorなどを兼任