二項対立の問題で考えているうちは本質的な解決には至らない

―― 次は質問3「日本社会のジェンダー構造課題、教育・産業への提案」です。その前に衝撃のデータをご覧いただきたいと思います。各国の高等教育を受けた人の経済リターンについて、男女別にグラフ化したものです。経済リターンは、生涯に得る収入から教育にかかったコストを引いて試算しています。

 日本のオレンジの棒線、つまり女性が低すぎて、最初に見た時は何かの間違いではないかと思ったんですがそうではありませんでした。大学や大学院を経た女性がほとんど収入を得ていない。結局、仕事を辞めてしまって労働の現場にいない、もしくは非正規雇用で働いているんですね。

 教育を受けた日本の女性が生涯で所得を得る社会システムが構築されていなくて、国や企業の改革が急務と言えるのではないでしょうか。近著『多様性ってなんですか? D&I、ジェンダー平等入門』(日経BP)でも触れていますので参考にしてください。

 そんな不平等な社会システムになっているのが日本ですが、渡辺さん、ジェンダーの構造課題について、ご提案はありますか。

渡辺 男性対女性という構図で考えている限り、女性、女性って言ったら男性が損する社会になってしまうのではないかという懸念が生まれます。私たちは女性だけが活躍する社会を望んでいるわけではありません。ジェンダーを考えるときに、人種・文化・民族性、地域の問題、LGBT(性的少数者)のことも考えていかなければいけない。すべてがつながっていると認識しながらジェンダーの問題を考えていく。つまり、二項対立の問題で考えているうちは本質的な解決には至らないという視点を持つべきだと思います。

―― 竹延さんはいかがですか。

竹延 女性と一緒に仕事をすると非常にいい結果が得られるということをもっと認識する必要があると思います。私の会社でこんなことがありました。女性の職人が現場に入ってきたら、20キロもある塗料の一斗缶を持って上がれないという問題が生じました。そこで女性が運びやすい重さにしたところ、男性の職人たちの生産性が上がったんですね。運びやすいからです。高齢者の男性も「こんなのが欲しかった」とおっしゃいました。

 女性の問題を女性だけのものとして片付けてしまうのではなく、そこには業界全体が変わるためのヒントがたくさんある。ちゃんと耳を傾ければ、それを生かして飛躍できると思います。

「関西からガラスの天井を壊す」

―― 女性の働きやすさの一歩先には、男性ですとか、日本全体で増えているシニア層にも有効な手段があるわけですね。

 課題として、渡辺さんから次のようなスライドをいただいています。

渡辺 先ほど日本の取り組みは「遅い」ということを申し上げましたが、日本はまじめにきちんとやろうとしているのは間違いないです。そこは私も誇りに思っています。しかし、世界のスピードに遅れてしまうと、結局日本が停滞していることになってしまうので、スピードを上げることをもう少し考えたほうがいいと思います。

 2番目は、行き過ぎた公平性というものがとても気になっています。一つ一つの手続きがすごく公平であり、誰にも開かれているといっても、社会にアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があると、実は公平ではありません。細かい手続きではなく、全体を考えたときの公平性が大事だと思います。

 3番目は、先ほども申し上げました通り、昭和時代の成功体験から脱却することです。人口が増えた昭和時代とは違い、2008年から人口がどんどん減り、2100年には今の人口の半分になると予測されています。つまり、未来は今までと違う世界になってしまうわけです。

 こういう中ですべきことは若手のリーダー層をどんどん増やしていくこと。若手には女性も含まれていますから、女性にもシフトしていくということが自然にできていく。それをやっていけば日本は結構いい線までいくのではないでしょうか。

―― 竹延さんからは「関西からガラスの天井を壊す」という提言をいただいています。

竹延 せっかく関西に万博が来るのなら、米国でもなかなか壊せない「ガラスの天井」をこの関西から壊したらいいんじゃないかなと思っています。関西にはこれだけ大学があって学ぶところがたくさんあるのに、関西2府4県の女性就業率はワーストです。しかし逆の言い方をすれば、宝の宝庫ということになりますので、しっかり女性とやっていく。

 私の会社は8割強が女性で、女性の皆さんを奮い立たせるということを始めていきたいと思います。会社には制約があるから時短勤務だよなんてレベルの話はもうやめて、本当の意味での働き方、女性のキャリア形成を目指していきたいと思います。

 私の会社では夫婦同席面接をやっています。育児・家事は女性の課題ではなく、男性の課題、もっといえば家族の課題であることを意識していただくようにお願いしています。

 日本は派遣社員の比率が高く、派遣慣れした弊害が日本経済の生産性悪化を招いています。海外では8割以上はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)という専門業者に外部委託することを行っています。日本でも今後広まっていくと思いますが、そのときに女性と一緒にやっていくからこそ生産性を高められるんだと行動を変えていくことで元気になっていくのではないでしょうか。

―― 最後に、次世代にこんなふうになったらいいと思うことも一言でいただけますか。

竹延 私たちの会社のビジョンは「人を活かし、技に生きる。」です。それを実現するためなら、多少のハレーションを覚悟で常識とルールを変えたらいいと思っています。見てくれている人はいると思って、その常識とルールにぶつかっていこうと思っています。

渡辺 日本は、社会全体がよくなるという「結果」をもう少し求めてもいいのではないかと思います。日本全体がよくならないと、一企業も浮上していかないので、もっと大局的な結果を求める視点に軸足を移していけばずいぶん変わるのではないかと思います。いろいろな人が参加することで経済的価値が上がりますので、ぜひそれを実行していけたらと思います。

―― ありがとうございます。建設、科学分野で新しい世界を切り開いているお二人にお話を伺いました。

文/長坂邦宏